事例報告 「WILLからはじめて、交差し変化する ~共創型プロジェクトのキーワードと場のつくり方~」

2018年12月15日(土)に開催された社会連携センターPLAT主催のフォーラム。株式会社ロフトワークから松井創氏をお招きし、発起人でもある100BANCHでの実践経験をお話いただき、共創を推進する場づくりの手法を学びます。

株式会社ロフトワークLayout Unit CLO(Chief Layout Officer)
松井創氏
オープンコラボレーションを推進するロフトワークで空間設計や運営を担うレイアウト部門の責任者。Yahoo!JAPAN「LODGE」やパナソニック「WONDER LAB OSAKA」等のプロデュースを担当。100BANCH発起人/オーガナイザー。

松井創氏:ロフトワークという会社はクリエイティブやオープンイノベーションにまつわるアレコレをやっています。デジタル領域から空間づくり、コミュニティデザインまで幅広く、どうやってこれからの時代に新しい価値を生み出していくかということを、20年ぐらいやっている会社です。

僕は空間デザイン、場の運営、まちづくり事業などをやっていまして、主に企業の共創空間をつくるお手伝いしていています。100BANCHの発起人で、2歳児の父でもあります。最近はプチバブルで、大手企業がオフィスの一角をリニューアルしてオープンイノベーショ空間をつくるという話がありますが、これが非常に難しい。その企業にとってのオープンイノベーションとは何なのかを、担当者と話しながら一つひとつ空間をつくっています。

空間をつくっておしまいではなく、企業さんと一緒につくった空間の運営までやっているのが少し変わっているところかなと思います。今日ご紹介する100BANCHもパナソニックと一緒に空間づくりと運営をやっています。

僕が一番やりたいのはまちづくりで、地域の花壇をつくるといったxsサイズのまちづくりを住民参加型でどのようにやっていくか、一方で高層ビル建築といった大規模開発にも関わりながら、これからの地球がどうあったらいいかみたいなことを考えるスペースを生み出しています。

自分のミッションとしては、「100年先の都市の風景を共創する」ということを掲げていまして、行政がつくっているまちだからとか、気づいたら隣にでかいビルができていたとかじゃなくて、自分たちの手で自分たちのまちをつくるということを、100年先を見据えてできないかなと考えています。

ここでの問いは、100年先の景色って一体どうなっていくんだろうかということ。車が宙に浮いてバンバン飛んでいて、高層ビルもニョキニョキ建っている世界が本当にみんなにとっていいのか、それとも違うのか。予測しても仕方がないので、自分たちの欲しい未来は自分たちでつくろうということで100BANCHをつくったのです。

今日は100BANCHの運営やそこに出入りしている人たちから共創について考えていきたいと思います。100BANCHは渋谷の駅前にありまして、古い倉庫跡地をリノベーションしてつくったスペースです。ここに35歳未満の若者が集まって、自分たちのやりたいこと、未来をこう創っていきたいというアイデアを練ったり実験をしたりしています。さらに各業界のトップリーダーたちがメンターとなって彼らを支援しています。

テーマは自由なのですが、例えば伝統をこれからの世代にどう継承して発展させていくかというプロジェクトであったり、未来の食に関する取り組み、持続可能な都市、持続的な地球をどうしたら創れるのかといったプロジェクト、人生100年時代といわれるようになってきましたが、その上で自分たちがどんな暮らしをしていたいのか、どういう社会にしていきたいかを議論するようなプロジェクトが多いです。

多様性とか包摂とかをテーマにしたプロジェクト、温かくて柔らかいテクノロジー、テクノロジーが主語で語られる未来ではなくて、人間がどうテクノロジーを使っていくのかをテーマにしたプロジェクトなどもあります。

すべてに共通しているキーワードは「欲しい未来は自分たちでつくる」ということ。パナソニックという日本を代表する企業と一緒につくっていることにもポイントがあって、最初はパナソニックから100周年でカフェをつくりたいと言われたんです。普通にやったらパナソニックの炊飯器や冷蔵庫をおいて、おいしい食事を提供してみたいなカフェになるんですが、そうではない形にするために、約8カ月かけてディスカッションをしながらつくりました。

ひとつプロジェクトを紹介したいと思います。コオロギや芋虫を使った「昆虫料理」をプロジェクトとしてやっているチームがあります。彼らはこれからの未来、昆虫を食材にすれば世界中100億人の人口に対して、安定しておいしい料理を提供できるということを真剣に考えてプロジェクトをやっています。自分たちでコオロギを育てて、肉を取り出して昆虫肉ハンバーガーをつくったりしています。最初は皆さん顔が引きつっているんですけど、食べてみたらおいしい。これこそイノベーションが起きる瞬間です。

固定概念が変わって、世界が変わる。そんなプロジェクトをどんどん推進していったら、その先の世界は面白くなるんじゃないかというのが、プロジェクトリーダーたちの“will”なんです。こういう一人ひとりの“will”をできる限り支援していきたいと思っています。

100BANCHでは「次の100年をつくる100のプロジェクト」をテーマにプロジェクトを募集しています。昆虫料理はその一例で、2年間で100のプロジェクトを生み出すことを目指しています。現在オープンから1年半経って90プロジェクトぐらいまできていて、順調にプロジェクトが生まれています。

今日は100BANCHで大事にしているキーワードを紹介していきたいと思います。まずは、まだ見たことのない世界をつくるのはきっと若者であろうということ。100BANCHでは35歳未満を若者と定義して、荒削りでもいいし、生煮えでもかまわない、無謀でも野心的であればOKという条件でプロジェクトを公募しています。35歳未満のプロジェクトリーダーだったら誰でもオンラインで応募でき、毎月審査・採択をして新しいプロジェクトが入ってくる仕組みになっています

例えば、アオイエというシェアハウスを運営しているリーダーは、バスで暮らす「バスハウス」をプロジェクト化したいといって応募してきました。中古バスを住居空間に改装して、好きな場所で働き、好きな場所で寝泊まりする、別の場所に行きたくなったら移動するという暮らし方です。不動産という不動で動かないものが、“可動産”になる新しい未来に挑戦したいという提案でした。

当初はバスもないし、本当にやれるのか分からないという状況。「そもそもバスが入るスペースはないよ」と言っても、どこかから中古のバスを買ってきて、「入りました」って写真を見せてきたんですけど、全然おさまってない(笑)。それでもなんとか場所を確保して、バスの中にベッドやソファ、水道設備がついた4~5人が寝泊まりできるファーストプロトタイプを完成させました。

実はバスハウスには僕も共感しています。今37歳なんですけど、嫁がマンションを買いたいと、今住んでいる賃貸の隣にできたマンションの住宅説明会に行ったんです。そうしたら60平米未満で7,500万円と言われたんですね。35年ローンを見せられて、僕は72歳まで働くのかと…。

これは結構リアルな話で、家を買うことが当たり前じゃない時代になって、これからの時代に住宅はどうあるといいかを考えると、“可動産”という発想は響くんです。考えに共感した人たちが「俺もそう思っていた」「一緒に協力したい」といって、デザインができる人、工作できる人、バスが買える人、いろんな仲間を集めて3か月でバスの出発式までこぎつけました。

そんなプロジェクトがゴロゴロありまして、90人ほどのリーダーがいて、珍獣使いと言われながら日々運営するのが僕の役目です。一般的に考えたらちょっと常識から外れているプロジェクトも多くて、どう判断していいかわからない。そこで、誰か一人でも賛同したら入居OKというルールにしました。

OKを出すのは僕たち事務局ではなくて、各界のトップリーダーたち。科学者、建築家、経営や農業の専門家、渋谷区の区長さん、クラウドファンディングの社長など、さまざまな領域でトップにいる方にメンターになってもらい、毎月一回集まってその月に応募があったプロジェクトを審査して、その中から誰か一人でも面白いといったら採択するというルールをつくって、入居者を受け入れています。

ふんどし部というプロジェクトがあって、これは100BANCHがオープンした当初に初めて公募の中から出てきたプロジェクトなんですが、審査をしているのを見て、これが一発目にきたら100BANCHは終わると思ったんですね(笑)。審査員の人たちもよく分からないという感じだったのですが、メンターの一人である落合陽一さんだけがめっちゃ面白い、これには未来があると。自分でつくったルールなので採択せざるを得なくなりました。
彼らはリアルにふんどし姿で毎日100BANCHにいるんですが、ふんどしを世界に売っていくといいながら、具体的なアクションは全然できていない。落合さんと面談したら、「世界初のふんどしファッションショーをやったらいいんじゃない」という話になりました。100BANCHのフロアをジャックして、ふんどし型の赤いランウェイをつくって、若手のトップモデルたちに現代風にデザインしたふんどしをつけて闊歩してもらおうと。クラウドファンディングを立ち上げたら、なぜか多くの共感を得まして、200万円の資金調達を達成してファッションショーが実現しました。
実は彼らは東大出身で、筋線維を研究しているチームなんです。トレーニングジムやパーソナルボディトレーニングを運営していて、そのジムのビジネスモデルとして、本気でふんどしを世界の人に届けたいと考えている。フランス人にふんどしを履かせるのが彼らのKPIなんです(笑)。たった一人の採択でスタートしたプロジェクトですが、「手伝うよ」とか「俺にも噛ませろ」という人が出てきて、2人で始めたプロジェクトを最終的に40人くらいの仲間が支援するまでになりました。

100BANCHはプロジェクトのプラットホームとして、思う存分何でもできる場所、24時間365日使える場所になっています。また、彼らの活動を100BANCHの箱の中に閉じ込めるのではなくてどんどん外に広めていこうと、100BANCHの建屋の前の大きな広場でプロジェクトの成果をまちの人にも体験してもらっています。

キーワードは尖ったおもしろい子たちが横で交わるから、新しい可能性、価値が生まれてくるということ。事例として、4つのプロジェクトのコラボレーションを紹介します。1つ目は、目の見えない人のための点字と文字を掛け合わせたデザインをするプロジェクト。それから耳の聞こえない人と耳の聞こえる人がコラボレーションできる脱出ゲームを開発しているプロジェクト。これはリーダー自身も耳が聞こえないろう者なんですが、ゲーム形式で聞こえる人と聞こえない人の交流を体現しようというものです。それから知的障害を持った人の中で特殊なアートの力を持っている人が、アーティストの才能を美術館やビジネスの中にインストールしていくというプロジェクト。4つ目は日本にいながら日本語がしゃべれない外国人に日本語を教えるプログラムをつくるプロジェクト。

この4つのプロジェクトがコラボレーションして、障害を持っている人をdisabilityと捉えるのではなく、新しい能力、新しい言語を扱う人という視点で見つめ、4種類を混ぜたらどんなコミュニケーションが生まれるのかを実験する「未来言語プロジェクト」を立ち上げて、ワークショップを開きました。

このワークショップの中から生まれた「未来言語ゲーム」はものすごい反響がありました。例えば、「辛いカレー」という言葉や「冷たいビールを飲む」という言葉を伝え合うということをやるんですが、伝わった瞬間にものすごい感動を呼ぶんです。ここに未来の言語コミュニケーションの可能性があるんじゃないかということを感じられる。これが発展して、今度は吉本の芸人さんと一緒にプロジェクトをやることになりました。

お互いの活動ややりたいことを持ち寄って交流する中で化学変化が生まれるのが面白いですし、その過程に未来というものがあるのではないかと思っています。予測した未来がやってくるのではなく、自分たちで未来をつくっていく。プロトタイプでもいいからやってみて、外に出してみて、まちの人に体験してもらうということを、積極的にやっています。

100BANCHは3か月間で何かしらのアウトプットを出してもらうことにしていますので、彼らも真剣です。だいたい常時30プロジェクトが同居して、実験をしたり、検証をしたり、プレゼンテーションをします。その期間はメンターたちからメンタリングが受けられ、自分たちの活動を周知させるために100BANCHのオウンドメディアで情報発信もできます。

PRやプロモーションはすごく大事で、僕らはパブリックリレーションを支援しています。大型展示会に出るという機会も提案しています。彼らが自分たちではつくれない晴れの舞台をプラットフォーマー側として用意して、彼らが生き生きと自分たちの活動を刷新できる場を提供しているんです。

オープンから一年経ったときに、一年の総まとめを8日間のお祭りにして、まちの人や社会に発信しました。7月7日にオープンしたので、七夕の日に「ナナナナ祭」と銘打って、過去のプロジェクトにも100BANCHに戻ってきてもらって、活動の進化系を展示しました。中には起業したプロジェクトもあるし、作品を完成させたプロジェクトもある。それらを文化祭という形でみんなに見てもらったんです。

狙ったのは自分たちが掲げた仮説が本当にちゃんと実現できているか、メンバーたちがやったことが本当に形になっているのかを見える化すること。各プロジェクトのリーダーに、祭りの実行委員になってもらって、主体的に関わってもらいました。

そうすると自分たちの表現や作品についてはもちろん、横でやっている仲間たちとのコラボ企画というのが自然発生するんです。トークイベントやフォーラム、ワークショップなどすべて自主提案で枠が埋まって、事務局は何もコントロールしてないんですが、8日間の大々的なお祭りになりました。

こういうプロジェクトは成果を追求したり、ビジネスという言葉が出た時点で陳腐になってしまうんです。あくまでお祭りで、評価は100年後にしてもらえればいいかなという気持ちで、この1年に何が起きたのかを単純に見てもらうということを目指しました。その方が自信になるし、横のコラボレーションが生まれて、ここから自分たちで未来をつくっていくんだという確信をもてるようになるんです。やはり、個人の意思、“will”から未来はつくられるんだと思います。