基調講演「共創で新しい市場をつくりだせ。 共創人財の『心・技・体』と組織マネジメント ~世界観を描き、共感で人を動かす~」

2018年12月15日(土)に開催された社会連携センターPLAT主催のフォーラム。オムロン株式会社 イノベーション推進本部 竹林一氏による基調講演では、共創を生み出すための仕組みや動き方、組織マネジメントの極意についてお話いただきました。

オムロン株式会社 イノベーション推進本部 SDTM推進室長
竹林一氏
オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を歴任し、数々の新規事業開発や新会社設立を手がける。現在はセンシングデータ流通取引市場を牽引する。

竹林一氏:こんにちは! 前職でドコモ・ヘルスケアという会社の代表をやっていましたので、マイクなしで元気にやらせていただきます。まずは自己紹介ですけど、僕は関西人で、オムロンも京都の会社です。以前、上司に「新しいビジネスは関西から出てくるんや」と言われまして、なんでかというと関西にはぶらぶらしたやつが多いんです。そういうやつはぶらぶらしながら面白い人と人をつなげて情報を掛け算していくんです。

もう一つは、ぶらぶらしたやつは視座視点が違います。同じ領域で同じ戦い方をしたら、規模の大きいところが勝つに決まっています。だから勝つにはいかに新しい視座を入れるかが大事ですね。一例を挙げると、鉄道グループの専務。以前一緒に会社を作ったことがあるんですが、「竹林君、日本の首都どこや知ってるか」と聞いてくるんですね。「東京でしょ」と答えると、「アジアの首都はどこや知ってるか」と。「知りません」言うたら、「大阪や」って言い切るんです(笑)。

大阪がアジアの首都だからと、香港や中国の旅行会社とタイアップして旅行者が日本に入ってくる前に関西の鉄道カードを配ってしまうんです。普通に戦うと関東圏の「Suica」が勝つんですが、アジアの首都は大阪やと言って関西の鉄道カードを配ってしまう。その発想の転換が非常にすごいですね。

僕自身は元々エンジニアでして、手がけたのは鉄道のカードシステム。一枚のカードで東京の17電鉄すべてに乗れるようにしました。その後ICカードが出てきて、一枚のICカードで日本中の鉄道に乗れるようになりました。その後はモバイル事業や電子マネー事業、ヘルスケア事業などを立ち上げて経営の方に回りました。

そしたら、これからはIoTの時代やからIoTでなんかやれ、オープンイノベーションで何かやれと言われて本社に戻りました。なんかやれと言っても、IoTもオープンイノベーションもすべて手段なんですね。やりたいことがあって、その手段としてIoTを使ったりオープンイノベーションを使ったりするんです。そこでIoTで重要になるデータを一社が抱え込むんじゃなくてみんなで使えるようにしよう、つまりIoTの楽市楽座をやってやれという発想で、今政府に働きかけています。IoTの改革を日本からやるで、という意気込みで仕掛けています。

今日は共創がテーマですので、オープンイノベーションとか共創っていったい何という話、共創を仕掛ける人材について、最後に実践してなんぼという話をします。じゃあまずイノベーションってなんやという話ですね。Wikipediaによると、1911年にヨーゼフ・シュンペーターさんが言うてはります。「イノベーションとは経済活動の中で生産手段、資源、労働力など、それまでとは異なる仕方で新結合すること」。ポイントは新結合です。

誰かのアイデアとアイデアを結合して新しいものをつくること。それだけではなく、新しい提案もイノベーションです。新しい品質のものをつくる、新しい生産方式を導入したり原料や供給元を変える、さらには新しい組織や新しい働き方を考えるというのもイノベーション。つまり、イノベーションって凄い技術で凄いことをやらなあかんわけではない。だから総務の人であろうが人事の人であろうが大学であろうが、今までの体系と違う新しいやり方で、新しい価値を生み出したら、それはイノベーションなのです。

オムロンではイノベーションを明確に定義づけしています。それはソーシャルニーズの創造。「社会的課題を解決すること=オムロンにおけるイノベーション」です。オムロンは信号機を作っているんですが、信号機を売って儲けたいんではないんです。交通渋滞を減らすにはどうしたらいいか、事故を無くすにはどうしたらいいかを考えていたら信号機ができたんです。血圧計もそう。血圧を毎日家で測るという文化をつくって、病気を早く見つけるために血圧計を作っているんです。

僕がオムロンの中で一番凄いと思っているイノベーションは、課長になって6年目で、3カ月会社に来なくていいという制度があること。なぜそんな制度をやっているかというと、その先部長になると、みんな勘違いするんです。俺がいないとこの会社や自分の部署は回らへんとか思うんです。でも本来は次の世代を育てるのが仕事。部長がいなくても部下がちゃんと育っていたら会社は回るんです。

もう一つは初心を思い出すため。オムロンで何をやりたいのか。日々売り上げは上げないかんし、品質も生産ロットも上げないかん。けどほんまにやりたいのはその先。社会的課題を解決したいとか、世の中に対してやりたかったことを3ヶ月の間にもう一回考えて、やりたいことが見つかったら会社に戻っておいでと。中にはモンゴルへ遊牧民を見に行ってそのまま帰ってこなかったなんて先輩もいますけど、それがその人の幸せやったらいいんです。やりたい事も無いのに帰ってきて、部長の席に座ってもらったら困るんです。

僕も急に休みが3ヶ月取れることになって、そのとき東京で単身赴任をしていたので、京都にいる嫁さんに朝6時に電話をしました。「休みが取れたから、今から歩いて帰るわ」と。嫁さんはまさか東京から京都まで歩いて帰るとは思わなかったみたいで、一日目に東京から藤沢まで42キロ歩いて、夜ホテルに泊まっていたら電話がかかってきました。「何時に帰ってくるの?」って(笑)。結局、15泊16日かけて京都まで帰りました。

歩きながら僕は何のために生きてるのか、何がやりたいのかを考えました。分かったのは、世の中にまだ無い新しい社会システムをつくりたいということ。もう一つは元々エンジニアだったんで、エンジニアを輝かせるのが僕のミッションやと。このときに考えた自分がほんまに何をやりたいのかという“will”がなかったら、怖くてイノベーションなんて続けられません。

次は共創、オープンイノベーションの話です。イノベーションってだけでもややこしいのに、その上にオープンってつくとまたこれが、分かったような分からへんような(笑)。Wikipediaで調べると「企業内部と外部のアイデアを組み合わせて革新的で新しい価値を生み出すこと」と。よく分からないんで、元大阪ガスの松本さんというオープンイノベーション室長のところに行って、なんでオープンイノベーションを仕掛けるのか聞いたんです。

松本さんの答えは明確でした。「2008年に会社が潰れかけてオープンイノベーションをせざるを得なかった」と。何が起こったかっていうとオール電化です。それで京セラとかトヨタとかアイシン精機と組んで、ガスから電気をつくった。外部と組まず一から社内で研究していたらその間にガスメーターはどんどん無くなってしまいますからね。それで必死になってオープンイノベーションを仕掛けたんです。

共創とかオープンイノベーションというと、“How(どうやったら)”はよく語られるんですが、大事なのは“why(なぜ)”です。なぜオープンイノベーションをやるのか。それは一社では勝てなくなってきてるから。社会の構造が変わり始めているときに一社だけでは解決できないんですね。ビジネス構造をどのように誰となぜ変えていくのかが、僕にとってのオープンイノベーションなんです。

イノベーションにもいろいろあって、みんな破壊的なイノベーションを考えてしまうからどうしたらいいかわからないんです。企業が得意な持続的イノベーションというのもあるんです。段階的にどんどん省エネ率を上げていくとか生産技術を上げていくとか。破壊的なイノベーションはベンチャーが得意ですね。大企業の人たちがそんなイノベーションは起こらないと高をくくっているうちに、自分たちのビジネスはなくなってしまいます。どこにどんなイノベーションを仕掛けるべきかを分かっておくとイメージしやすいんです。

技術や商品、サービス、市場など、どこにオープンイノベーションを仕掛けるのか。横軸になるのはどれほど斬新的で画期的か、もしくは破壊的か。オープンイノベーションをやれと会社に言われたら、どの分野にどこまで仕掛けるのかをはっきりしておいた方がいいですね。マトリックスの一番上まで仕掛けようと思ったら誰か強力なバックアップがないとつぶされます。全体像をもってオープンイノベーションをデザインしないと、社会を変えるところまではいけません。

共創ビジネスは既存のお客さんと組んで全く新しいビジネスを作るのが一番早いです。言わば顧客関係3.0。顧客のニーズに答えるという受託関係が1.0。顧客の課題を見つけて提案するのが2.0。そして3.0は共創型。世の中の変化を読んで、顧客と掛け算で新しい価値を創り出す。顧客関係3.0ができると、社会実装も早くなるし儲かるまでのパターンも早くなります。

共創型の具体例を出すと、例えばトップ営業。トップ同士が握って一緒にやると早い。下から積み上げていってもなかなか共創は起こりません。あとはスター型営業。スターを作って、IoTだったら竹林というブランドをつくってしまえば、IoTの話は全部僕のところに入ってくるようになります。ブランドは自分でつくれます。僕はどうやってブランドをつくったかというと本を書いたんです。

僕が鉄道会社の既存事業部に新しい提案をもっていっても、「そんなややこしいもん持ってこんといて」と言われます。それが担当部門をまたぐような提案だと余計に邪魔くさい。キーマンにも全然会えません。それで僕は本を書いて鉄道会社の社長全員に送ったんです。

そうしたら鉄道会社の社長が会ってくれるんですね。サラリーマンで本を書いてるなんて珍しいんで、どんな奴か気になるんでしょうね。まず社長のところにいって、あとは社長のお墨付きでキーマンを回っていけば話がどんどん進んでいく。そうやってプロジェクトを立ち上げてきました。それ以降も何冊か本を出していますが、それは相手を突破する手段です。

イノベーションを起こすためにはコミュニケーションとモチベーションも必要です。コミュニケーションのない会社からイノベーションは起きません。コミュニケーションのない会社にモチベーションもないし、モチベーションがないのにイノベーションなんて起こりません。コミュニケーション、モチベーションからきっちりやる必要があります。

コミュニケーション、モチベーションの前に個人の力も大事です。個人の力というのはI believe,I will,I think,I doの4つです。だいたいI think,I doはできるんですね。自分で考えて自分で行動する。ですが、ときどきYou think,I doという人がいます。先生や上司にやることを考えてもらう。そういう人が偉くなってしまうとI think,You doになってしまって、うまくいきません。まずはI think,I doをやること。

そしてもう一つ大事なのが“will”。どれほどの意思でどこまでやるつもりなのか。本気で業界を変えたいのか、社会的課題を解決したいと本当に思っているのか。“will”が小さかったら小さな“think”しかできません。そして、thinkが大きいときは“belive”が大切。俺はできると信じてやるしかないんです。

“will”が大きくても、いきなり大きな“do”をやったらコケるんで、着眼大局着手小局ですね。私は2006年から12年間、正月には「やりたいこと100連発」というのを書いています。これを書いていると自分の“will”が分ってきます。“will”が分かってくると賛同する人が現れてきます。“will”に論理やプロセスを重ねていくと共創ビジネスになるんです。

僕がやっているのは秘密結社型といって、“will”で集まった人たちがつくるクローズのビジネスモデル。最初につくられた秘密結社は「日本ロマンチック協会」。日本の男女はもっとロマンチックにならねばという“will”をもった人たちが集まっています。「日本唐揚協会」も秘密結社からスタートました。唐揚げが日本の文化を救うという“will”のもと、唐揚げ粉の会社とか唐揚げの聖地大分県の人なんかが集まって、今はオープンな活動になっています。どちらもお金が回る仕組みもできあがっています。

「あけみくらぶ」というのは夜明けの女性、つまり夜勤明けの看護師を応援するクラブです。旅館や旅行会社、鉄道などとタイアップをして、朝からチェックインできる旅行をセッティングします。朝、夜勤明けで旅館にチェックインしてひと眠りしてから、おいしいもの食べたり温泉に入れるんです。その時間だったら旅館はこの時間帯はあいているんですね。こういう卓偉なモデルにはどれも“will”があって、その“will”を実現するために誰とどう組むかをデザインするのがオープンイノベーションなのです。

じゃあ、“will”があって共創が生まれる中で、どんな組織マネジメントが必要か。僕が流行らせようとしているのは、起承転結型人材育成モデルです。「起」は0から1を仕掛ける人。ちょっと変わった人が多くて、世の中ではだいたい変人扱いされます。それは10年先、20年先を語っているから。ですが、彼らが語ったことは現実になっていくんですね。「承」は1をn倍化する人。「起」の人が言った面白いことをグランドデザインする人です。「転」は1をn倍化する過程で、品質やコスト、納期をリスク管理できる人。「結」は現場でやり続ける人。「起」は妄想設計、「承」は構想設計、「転」は機能設計、「結」は詳細設計。これは全部大事で、どの設計が抜けてもダメなんです。

ベンチャーにいくと起承の人が多いですね。それで事業が大きくなってきたり、儲かりどころが分かってくると転結の人を増やしていくんです。ところが今世の中は変わってきています。もう一回起承で会社の構造や業界の構造を変えていかなあかん。ただし、現場を動かすことができるのは転結なのでここに一つ壁があります。

特にソフトウェアや金融業界では起承が重要になっています。ソフトウェアなら、あらかじめ決められた仕様があってその通りにプログラミングをするのは転結のモード1。要件や仕様は決まっておらず、とりあえずやりながら回していくのは起承のモード2です。金融なら既存システムをダウンさせずに回すモード1と、フィンテックのようなトライアンドエラーを繰り返すのがモード2。

転結は武士の文化ですね。武士は失敗したら切腹です。だから情報は漏洩したらあかん、品質は守らなあかん。売上が下がったら切腹ですから絶対リスクは負わない。じゃあ起承はというと、忍者の文化。忍者は切腹したらあかんのです。敵方の城に入って、南京錠を開けているところを見つかっても忍者は生きて帰るんです。「南京錠が変わってたやないか」とか「見張りのタイミングが言うてたんと違う」とかを持ち帰って、次に挽回するのが忍者です。どっちが良い悪いではなく、どちらの文化も必要です。

要は起承転結のバランス。起承はクリエーションで転結はオペレーション。この2つが融合したときに初めてイノベーションが起こります。分析していくと、「起」に求められるのは発想力、「承」は概念化する力、ストーリーを描いて巻き込む力。ストーリー構築ができたら、「転」の分析力や戦略的思考で資料をつくる。これを突破しないと企業はお金が出ません。ここを突破すると「結」が観察力でもって現場を回します。

共創が起こるときに一番足りてないのが「承」人財。「起」の妄想設計を構想設計に落とし込むプロデューサー的役割です。タニマチとなる経営のトップは「承」がつぶされないように支援して欲しいですね。組織のトップに言いたいのは、自ら先頭に立ってリスクを負い、忍者と武士をうまくコントロールしてくださいということ。

やりたいことがある人、地域を盛り上げたい人は、自分は起承転結のどこが得意か。そして、どんな人とどうコラボレーションしたら掛け算が起こっていくのか。そこをデザインして、タニマチも見つけてバックアップしてもらうと、やりたいことが実現していくと思います。