PLATFORUM

第一部 事例発表&
パネルディスカッション
「なぜ我々はマイプロジェクトをせずにはいられないのか」
「『志』をもった情報工学部生たちのグローバルキャリア形成」

社会連携フォーラム PLATFORUM 2025

2025年12月11日(木)に開催した社会連携フォーラム「PLATFORUM(プラットフォーラム)」。“志”に共感して仲間や資源が集まり、共創が生まれるプロセスを理論と実践から学び、参加者の次の一歩へとつながることを目指します。第一部では基調講演の後、中日新聞社編集局教育報道部の宮崎厚志氏と名城大学情報工学部教授の川澄未来子氏に事例発表をしていただき、パネルディスカションを実施しました。

事例発表1
なぜ我々はマイプロジェクトを
せずにはいられないのか

最初に事例発表していただいたのは、中日新聞社編集局教育報道部記者で一般社団法人Ourの代表理事も務める宮崎厚志氏です。宮崎氏は入社以来、スポーツ記者としてサッカーとプロ野球を中心に取材をしていました。第二子誕生の際に育児休業を取得したことで、子育てや教育への関心が深まり、育児休業後は教育報道部に異動しました。

教育報道部で子どもの主体性を重視した学校を取材したり不登校について掘り下げていくうちに、現行教育への疑問が強くなり、探究学習やプロジェクトを取り入れた学校教育に魅力を感じるようになりました。同時にメディアリテラシーを育む必要性を感じ、社内の新規事業として、小中学生向けのニュースの配信サイトを名古屋市教育委員会と立ち上げました。もう一つ始めたのが、マイプロジェクトアワードです。これは、NPO法人カタリバが全国事務局をやっているもので、宮崎氏は不登校取材をきっかけに、全国大会で参加者の高校生と対話するサポーターに誘われて参加するようになりました。そしてこの取り組みの価値と可能性を確信し、会社に提案してマイプロジェクトアワード愛知県サミットを開催することにしたのです。2024年度に本学ナゴヤドーム前キャンパスで初開催し、42プロジェクト130人の高校生が発表と対話をおこないました。2025年度には、日常的に高校生を支援しようと、一般社団法人Ourを設立。月に一度、ナゴヤドーム前キャンパス「社会連携ゾーンshake(シェイク)」で高校生と高校生をサポートする大学生や社会人が混ざり合うゼミのような場をつくっています。さらに、愛知県からの受託事業として、プロジェクトに取り組む大学生やプロジェクト・ベースド・ラーニング(以下、PBL)を導入する大学教員の相談にのり、PBLを推進する活動にも関わっています。

NPO法人カタリバによると、マイプロジェクトに取り組む高校生の数は、現在107,057人いるという数字があります。これは、2022年度から実施された改訂学習指導要領で「総合的な探究の時間」が普通科高校の必須科目になったことで、マイプロジェクトに取り組む高校生が急激に増えて出てきた数字。ただ、宮崎氏によると、高校での探究学習の現場では「やらされ探究」という課題があるのも事実で、「マイプロジェクトとは何か」という問いとは、常に向き合わざるをえないそうです。では、マイプロジェクトの定義は何か。宮崎氏はソーシャルイノベーションの専門家・井上英之氏の定義をさらに深め、「社会(他者とのつながり)の中で、自己の存在意義を探してもがく営み」としました。さらに、その営みを物語化し、人に語る中で自己理解していく手法だといいます。やらされではなく、やりたいとも違う、“せずにはいられない”のがマイプロジェクトの本質であり、内在的な自己探究欲求に源があるのではないかと考えています。

「人間は自分の存在を問う存在なのだ」といった哲学者・ハイデガーの言葉のように、本能的に人間を人間たらしめている自己探究欲求が、きっかけとなる出会いや出来事によって引っ張り出されたときにマイプロジェクトが生まれるのではないかと宮崎氏は言います。マイプロジェクトに取り組む高校生に話を聞くと、彼ら一人ひとりにも内在的な自己探究欲求が垣間見られるといいます。

宮崎氏はこれまでの自身の取り組みを振り返り、「志」と呼ばれるものの本質には「利己と利他の統合」がキーワードにあり、誰かのためでもあるけれど、自分のためでもあるとこではないかと問いかけをしていただきました。

事例発表2
『志』をもった情報工学部生たちの
グローバルキャリア形成

2人目の事例発表は、本学情報工学部の川澄未来子教授です。川澄教授は人間の感性をものづくりに活かす感性工学を専門としています。研究室の特徴としては、企業や自治体との共同研究が多いこと、PBLを実践していること、多くの実問題を扱い、社会連携や国際連携にも積極的なことなどを挙げていただきました。2025年度は院生4人、学部生7名体制で、工業製品から農作物まで、それぞれ企業や自治体、海外の大学などの連携先と組み、学生がチームで重なりながら取り組んでいます。

川澄教授は、まず研究室で現在進めているプロジェクトについて説明しました。愛知県農業総合試験場と共同で取り組む名古屋コーチンの卵殻の外観研究、タイのラジャマンガラ工科大学タニヤブリ校とはスイレンの色彩研究、そして燕三条の金属加工メーカーとは、包丁の外観の新価値創造を、感性工学を用いておこなっています。また、自動車関連サプライヤーとのつながりが多く、共同研究を進めるかたわら、社員と学生がアイデアソンをおこなった事例も紹介しました。

また、研究以外のプロジェクトとして東京の映像クリエーション会社と産学連携で取り組んだのは、プロジェクションシアターの開発です。本学の100周年に合わせて樹齢100年の名城の木をスクリーンに写し出し、そこに受験生が合格祈願できるARの“フルーツ絵馬”を重ねる仕掛けを実装。オープンキャンパスで発表したものを本イベントでも披露しました。また、2025年度は東海地方20大学の学生が研究発表する「情報学ワークショップ」を本学で10年ぶりに開催し、その中で女子学生活躍をテーマにしたセッションを企画するなど、情報工学を学ぶ女子学生の割合向上にも注力しています。

さらに、海外研修を10年以上続けており、2025年度の実施例を紹介しました。「グローバルチャレンジ研修」では、2年生から大学院生まで10数人で2週間、シンガポールとタイの2カ国を訪れました。シンガポール国立大学にあるインキュベーション施設「BLOCK71」では、現地で活躍する起業家の方々の講義を聞き、現地学生とコミュニケーションを図りました。タイではキングモンクット工科大学でローコード型AIプラットフォームの開発現場を視察したほか、製造工場でタイ人スタッフや日本人スタッフと交流し、将来海外駐在や出張で働く場合の現実的な事例を視察しました。滞在はタイの郊外にある大学内のホテル。現地学生とキャンパス内で生活を共にし、交友関係を育みました。また、タイではサッカービジネスを視察し、最先端の施設や急成長するスポーツビジネスの現場を垣間見ることもできました。

2つ目の実施例は、「感性工学の共同研究によるグローバルエンジニア育成」。こちらはJASSOの支援を受け、3名の学生がタイで35日間の研究滞在をしました。海外で実験をおこなうのは容易ではなく、現地で被験者を集めるのも一苦労です。タイ人とは第二言語同士で会話しますが、正確に伝えなければ実験データにノイズが入ってしまいます。学生はたくさんの課題を乗り越え研究の経験を積みました。

このように情報工学部ではグローバルキャリア形成に力を入れており、海外で同世代の学生と対話し刺激を受けることは重要だと感じているといいます。さらに、情報工学部生はAIやデータサイエンスの使い方を学ぶ一方で、それらを使って解決したい社会課題をまだ見つけられていない場合もあるため、海外研修は日本の日常生活では発想できない、多様な課題と出会うきっかけになっていると話します。研究滞在においては、学生たちが難易度の高い目標に挑戦し、国際的な視野や人脈を得るチャンスになっていることも報告しました。

パネルディスカッション
志から始まるプロジェクトはどう生まれ、伝播する?

事例発表に続いて、パネルディスカッションを実施しました。パネリストは基調講演していただいたNPO法人「場とつながりラボhome’s vi」代表理事の嘉村賢州氏、事例発表していただいた中日新聞社編集局教育報道部の宮崎厚志氏、本学情報工学部教授の川澄未来子氏の3名。ファシリテーターは本学の社会連携アドバイザー白川陽一氏です。

白川:御三方の話には共通するものがありました。共創が起きるプロセスにおいて、嘉村さんが説明したソース原理の「コール」、そして宮崎さんがおっしゃっていた「せずにはいられない」という感覚をもう少し探ってみたいのですが、いかがでしょうか。

宮崎:「せずにはいられない」は、やらされではなく、やりたいとも違う、突き動かされる感覚です。それがどこからきているか考えると、人間の行動の源には、「ワクワクや好奇心」と「不安」があり、その2つを満たそうとする気持ちが裏にはあると思っています。

嘉村:ソース原理では、「コール」はやってくるものでありタイミングをコントロールできません。朝起きて歯を磨くのと同じくらい、気づいたら動いてしまっているもの。ただし、コールが来たときに「あっ、これだ!」と気付く土壌づくりはできると思います。

川澄:スタートしたばかりの頃、海外研修は学生にとって「やらされ」だったかもしれません。それでも、参加してよかったという思いは先輩から後輩へと伝播しました。また、学生は海外研修に行く前は「何か得られたらいいな」程度でも、研修中に覚醒します。現地で同世代の学生から刺激を受け、「せずにはいられない」を見つけるきっかけになっているのだと感じます。

白川:まさに「志」は伝播すると感じています。学生から学生への伝播、そして川澄先生の熱意も伝播し、学生がプロジェクトに取り組み、海外研修に挑戦している側面もあるのではないでしょうか。ここで、会場からの質問を1つ読み上げたいと思います。「会社として従業員のマイプロジェクトを支援し、探究してもらう取り組みを考えていますが、なかなか社員がのってきません。何かコツや仕組みはありますでしょうか」。こちらはいかがでしょうか。

嘉村:組織論的には、機会はつくるけれど自発的に行動してもらうのが効果的です。ただし、自発性は伝播しますので多少のおせっかいはOK。その際、エンプロイーとしてではなく、ソース役として情熱と愛をもっておせっかいするといいですね。

宮崎:自発的にやっている人たちを会社が面白がる土壌があると、伝播するのではないでしょうか。面白いことをやれる環境を整え、面白いことをやっている人がいたら一緒に面白がる。そんな雰囲気づくりは大事なファクターだと思います。

白川:もう一つ質問を読み上げます。「ソース役は一人とのことですが、活動の中でソース役の人間が移り変わることはあるのでしょうか。その場合、プロジェクトはどのように変容するのでしょうか」。

嘉村:ソース役としてある程度活動していくと、自分の役割を終えたと感じるときはあるでしょう。そのときは、イニシアチブを誰かに渡す自由がありますし、受け取る側にも自由があります。ポイントは一対一で、自由意志でバトンを受け取ってもらうことです。

白川:川澄先生にもお聞きしたいのですが、中長期で続いていくプロジェクトを継承するタイミングでは、どのような葛藤があるのでしょうか。

川澄:とても悩ましいです。学生たちは先輩から後輩へつながっていきますが、研修の企画や引率を誰に継承するかという問題もあります。プロジェクトを続けてこられたのは自分の熱量に頼っていた部分も大きく、熱量は引き継ぐことがなかなか難しいので、今後続けていけるかは悩んでおります。

白川:ありがとうございます。問いを引きずって第二部の交流会でも引き続き探究できればと思います。最後に会場の皆さんへ、一言メッセージをお願いいたします。

宮崎:「終わりを怖れない」
どうしたら共創は始まるのか、継承できるのかという話が多かったと思いますが、僕自身は時間の有限性を意識しています。物事は始まれば終わる。終わってもいいので、全力でやりきろうという感覚をこの場に残しておきたいと思います。

川澄:「悩む!」
悩んでいないとき、何も次は見つかりません。悩み始めたら解決に向かっているのだろうと思っています。学生たちだけでなく、私自身も大いに悩んでいますが、悩んでいることに価値があるのではないでしょうか。

嘉村:「人生のソースは私。とってみたいリスクは?」
ソース原理では、目的のためにリスクを取っているかが問われます。私は人生にエネルギーがなくなっていた時期、「あなたが停滞しているのは、何かのリスクをとっていないからかもしれません」という言葉を見つけてハッとさせられました。

(事例発表者)
宮崎厚志氏 中日新聞社編集局教育報道部・一般社団法人Our 代表理事

探究学習・PBL、オルタナティブ教育、不登校などを長く取材。2021年に新規事業「中日新聞@School」開設。2025年「全国高校生マイプロジェクトアワード愛知県サミット」を初開催。愛知県大学PBL推進アドバイザー。


川澄未来子氏 名城大学 情報工学部 教授

専門は感性工学、色彩工学。(株)豊田中央研究所、愛知淑徳大学、名城大学理工学部を経て、名城大学情報工学部・理工学研究科教授。企業や自治体との共同プロジェクトを多数実施し、10年以上に渡りグローバル人材の育成にも注力。