PLATFORUM

第一部 基調講演
人と組織、プロジェクトがいのちのように動き出す
〜ソース原理の実践知
嘉村賢州氏

社会連携フォーラム PLATFORUM 2025

2025年12月11日(木)に開催した社会連携フォーラム「PLATFORUM(プラットフォーラム)」。“志”に共感して仲間や資源が集まり、共創が生まれるプロセスを理論と実践から学び、参加者の次の一歩へとつながることを目指します。第一部では嘉村賢州氏をお招きし、最先端の組織論とプロジェクトがうまくいく原理について講演していただきました。

プロジェクトにハマった
コミュニケーション不器用な学生時代

自己紹介からさせていただきますが、私の名前は「賢州(けんしゅう)」といいます。兄は「豪州(ごうしゅう)」といいまして、オーストラリア好きの父親が名づけた兄の名前にあやかっています。兄は小学2年生のときに百人一首を3日で覚え、小学5年生で微分積分をやってしまう超天才ですが、弟の私は正反対でADHDの特性をもっています。忘れ物が多く、コミュニケーションが不器用でした。今はその不器用さが強みとなっています。

組織づくり、プロジェクトづくりの専門家として海外の最先端理論を紹介しながら、実践支援もしています。コミュニケーションが不器用だった私が変わるきっかけは、大学生のときにクラスメイトに国際協力のボランティアに誘われたことです。勢いのまま活動に参加し、3ヶ月後に開催するイベントの広報を任されました。役割を与えられたことでコミュニケーションがとれるようになり、イベント後は年齢も国境も超え、仲間と無二の親友のような関係になりました。私は一緒に活動すれば人とつながれると知ってのめり込み、学生時代に100以上のプロジェクトに関わりました。今日は私がプロジェクトにハマった先で出会った組織論やプロジェクトを進めるための知恵をお伝えしたいと思います。

私は大学卒業後に一度就職したもののチームづくりの魅力が忘れられず、ファシリテーション分野に仕事を移しました。特に魅せられたのは、50人、100人規模でも対話をすることができる大規模ダイアログです。しかし、大企業向けの組織変革に関わるようになると一定の効果は生まれるものの、根本的な変化を生むまでには至りませんでした。その時私は、人類は組織のつくり方を間違えてしまったのではないかという問いが浮かびました。そんなときに、従来のトップダウン型とは違う組織モデル「ティール組織」について書かれた本と出会って、稲妻が走りました。これは人類の希望だと思い、ティール組織の概念を日本に紹介する活動をはじめ、今では世界中の組織論や実践を研究し紹介する活動をしています。

「ティール組織」とは?
最先端の組織論に学ぶ

まず最初に最先端の組織論から皆様の現場に役にたつチーム運営の手法を学んでいきましょう。マッキンゼーでコンサルタントとして活躍していたベルギー人のフレデリック・ラルーは、トップに立つ人や現場で働く人があまり共に幸せそうではないと気付き、世界中を調査しました。そして、昔のやり方とは根本的に違う、多様性を活かして幸せに集い、お客さんを幸せにし、お金も稼ぐ組織が現れているのを発見しました。フレデリック・ラルーは歴史を俯瞰的に見て、人類は5つの組織形態を順番に発明し、5番目の形態としてティール組織が誕生したと説明しました。

まずレッド組織。これは脅しや力で支配する小集団で、一番古い原始的な組織の形態です。次に人類はヒエラルキーを発明し、1人が10人に指示命令を出し、その10人がさらに10人ずつに指示命令を出し、何万人もの人を動かして大きな仕事を成し遂げるようになった。これがアンバー組織です。その次はオレンジ組織。科学的マネジメントを導入し、メンバーをいろいろな部署に当てはめ、KPIや目標を管理してマネジメントする。さらに、罰を与えてクオリティコントロールするのではなく、実力主義・能力主義で結果を出せば出世する仕組みをつくり生産性を高めました。いまでも世界の6、7割の組織はアンバーかオレンジでしょう。

そんな中、もっと人や多様性を大事にして、同じ組織で働く人たちが仲間や家族のように対話しながら活動するグリーン組織が現れ、さらに最先端のティール組織が生まれました。私はレッド・アンバー・オレンジをパワー型、グリーンをラブ型と呼んでいますが、パワー型は物事を達成するのが得意です。強いリーダーがいて結果を出す。結果はプロセスを癒す力があり、強いリーダーがいると洗練されたアクションが生まれやすくなります。ただ負の側面があり、仲間が疲弊しやすく、多様性は大切にされず、トップの視座によって組織の強さが決まります。一方でラブ型は仲間との関係性が紡がれ、アイデアや創発が生まれ、コミットメントが高まります。しかし、話し合いに時間がかかり、みんなで決めるので無責任になり、計画や結論はつぎはぎになりやすい。みんなで仲良くという理想論は分かりますが、難しいのが実際のところです。結果、オレンジ組織への揺り戻しがきていますが、戻るのではなく、強いリーダーシップも多様性を活かすプロセスも両方大事にするのがティール組織です。

アイデアが具現化する
プロセスを解き明かす「ソース原理」

どうやったら魂のこもった組織になるのか探究し、「ティール組織」を発見したフレデリック・ラルーに対し、スイスのチューリッヒを拠点に活動するピーター・カーニックとその弟子たちは、アイデア具現化のメカニズムを探究し、どんな組織でも結果を出せる普遍的なメカニズムとして「ソース原理」を提唱しました。その概要は、「プロジェクトやビジネス、夫婦関係、友達関係といったあらゆる人間の活動は、たった一人のソース役から始まる」というもの。これを聞いたとき、最初は違和感だらけでした。自己紹介でも話したように、私はみんなでプロジェクトに取り組むのが豊かだと考えていましたので、なぜまた一人に戻るのだろうと。

居酒屋やカフェでみんなと話をしていてビジネスアイデアが膨らむことがあります。それはみんなのアイデアという感じがします。そう彼らに問うと、確かにアイデアレベルではみんなで進めるけれど、アイデアに留めず実現に向かって一歩踏み出すのは1人だといいます。その始めに行動に移した1人をソース役と呼ぶのだと。ソース役はビジョンに関する多くのアイデアを受け取り、その実現に向けて次のステップを明確にするのが仕事だといいます。実現に向けた全体像ではなく、次のステップなのがポイントです。例えば、社員が社長への不平不満を言っています。「社長が会社のパンフレットを作れというから作ったのに、完成間際に口出ししてひっくり返された」と。これはソース原理の観点では仕方ありません。なぜなら、社長は会社パンフレットがあると役に立つという直感はあっても、具体的な内容は思いついていない。具体性が見えた後、「これは違う」とわかる。これが境界線です。ソース役は境界を守り、次のステップを明確にする。それがソース原理の大前提です。

では、どういうときにプロジェクトは失敗するのでしょうか。ピーター・カーニックらは、失敗パターンとして3つの病理を提示しています。1つは「ソースの否定者」。自分が一歩踏み出したはずなのに、リーダーシップを取ろうとしない人のことです。もう1つの病理は「ソースの暴君」です。仲間を集めてプロジェクトを進めるとき、ソース役が「お前を信じて任せた」といえば仲間は創造的に働き貢献しますが、ソース役が口出しし過ぎるとうまくいきません。「ソースの暴君」の逆は、「ソースの怠け者」です。会社のパンフレットの例でいうと、「現場のスタッフが頑張っているし、ダメ出ししたら辞めてしまうかもしれない。だったら、仕上がりは良くないけれどこのままいこう」と考える。このままでは良くないと分かっていながら言わないのは「ソースの怠け者」です。

「ソース原理」における
インナーワークとアウターワーク

続いて、インナーワークとかアウターワークです。例を挙げると、映画フィルム製作プロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングで資金を集めようとしたけれど、集まらない。その場合、皆さんならどうやってプロジェクトを活性化させますか? よくあるのは、クラウドファンディングのキャッチコピーや説明文を磨いた方がいいとか、クラウドファンディングの専門家を呼んでコンサルティングを受けようといった意見です。あるいは会社がうまくいっていないとき、戦略を磨くとか、人材を強化するとか、財政管理を強化する。そういった外側に働きかけることをアウターワークといいます。これはコストパフォーマンスが悪く、本質的ではないといわれます。

ではどうするかといえば、インナーワークに取り組みます。映画フィルム製作プロジェクトのAさんに「子どもの頃、お金についてどんなふうに育ちましたか?」と聞きます。お金は怖い、汚いという考えをもつような幼少期を過ごしていた場合、お金を集める行為を無意識に遠ざけてしまい、クラウドファンディングをするとき申し訳なさそうに、本当にお金を集めたいのか伝わらない文章を書いてしまう。そういう状態のときはアウターワークをしてもだめで、お金は汚いという意識を取り除き、映像で世の中を感動させるためにお金の力を貸してくださいと、自信をもって語れるように内側に働きかける必要があります。

他にも私たちが何かに取り組むとき、失敗したらどうしようとか、誰かに負けたくないとか、本来のピュアな思いではない、濁った何かに動かされてしまうことはよくあります。そのときはインナーワークで本当にやりたい素直なビジョンを語れるようにすると、プロジェクトに磁場が生まれ、自然に人や物、情報が集まって物事はうまく進み始めます。

大きなことを成し遂げるための
仲間づくりと旅路

ソース原理では、仲間を集める2通りの手法があります。1つはプロジェクトの一部、例えば広報とか資金調達に関して、口出ししないから創造的に自由に進めてほしいと伝えて仲間になる。これをサブソースといいます。もう1つはお金を払って、言われた通りやってくださいと伝えて仲間を集める。これをエンプロイーといいます。企業はエンプロイーとして雇いスキルをお金で買っているのに、サブソースのように主体的に考え創造的に働いてくださいと言ったりする。その矛盾には注意が必要です。

ソース役が生まれて終わるまでの旅路についても解説します。ソースジャーニーと呼ばれるものです。私たちは自分の価値観や将来こんなことをやりたい、こういう人生を送りたいといったビジョンをもっています。それが明確な人と不明確な人がいますが、自分の価値観やビジョンを明確にしておくと、チャンスと出会いやすくなります。準備段階では何もしなくていいのですが、自分のビジョンや価値観を耕しておくといいです。

次に、コールを受け取りましょう。誰でも平等にひらめきや直感、アイデアをもっています。ただし、アイデアが出たときに流してしまうか、やろうと思うかは雲泥の差です。やろうと決め、コールの実現を引き受けた瞬間にイニシアチブ(アイデアが実現するまでの一連のプロセス)が始まり、ソース役になります。このとき大事なのは、コールに応えてリスクをとること。恋愛関係を想定すると、お付き合いができたら幸せな日々が待っているというビジョンがある。でも告白の成功は確約できません。それでもリスクをとって告白してはじめて成功に近づきます。何かを始めることはリスクをとることとセットなのです。

リスクをとってプロジェクトがスタートすると、次は旅を進めていく段階です。安心していただきたいのは、ソース役は迷って当然ということ。初めから全体像がわかっている人はほとんどいません。ただし、次の一歩だけは明確にするように頑張りましょう。

誰もが自分の人生のソース役。
人生が共鳴し合ってプロジェクトは進む

ソース役には3つの役割があります。1つは先ほど言及した一歩踏み出してリスクをとる(起業家役)、もう1つは次の一歩を明確にする(ガイド役)、そしてもう1つは境界線を守ること(守り人役)。ガイド役をこなすにはしっかりとソースタイムをとること。時間をちゃんと確保して、直感を得たり、自分の活動を振り返ったり、人と対話を重ねて次の一歩を明確にしたりする必要があります。今の社会や組織活動は実務に振り回され、ソースタイムをとってないのが大問題なのです。

(上記図を参照)さらに、自分一人では旅を進められないので仲間を巻き込んでいきます。Aさんがソース役となり、サブソースとしてBさんCさんDさんを巻き込みます。そしてDさんもFさんを巻き込んでサブソースのサブソースにします。その場合、FさんにとってDさんはグローバルソース(包括ソース) となります。ではBさんは、プロジェクト開始前はどういう役割だったかというと自分の人生のグローバルソースです。豊かに生きようと模索する中で、Aさんのプロジェクトに共鳴し、プロジェクトに関わって自分の人生を前進させようとサブソースになったのです。つまり、フィールドに関わる前はグローバルソース同士のサミットのようなもの。人生と人生が共鳴し合ってプロジェクトは進みます。

例えば、Cさんが組織のホームページを立ち上げようと現場から声を上げたとします。社長であるAさんに月1回コラムを書きませんかと提案する。Aさんが応えれば、ホームページ立ち上げのプロジェクトにおいて社長のAさんはCさんのサブソースになります。ここでAさんはコラムを毎日書きたいと思っても、Cさんが月1回と決めたら従いましょう。社長風を吹かせて好き勝手やってしまうと、プロジェクトはうまくいかなくなります。

別の例で、Eさんが活動領域を広げていき、社長のAさんとしてはそこまでやるとプランドが崩れてしまう状況のとき、ソース原理では境界線にかかっているとEさんに素直に伝えます。そして、Eさんになぜそこまでやろうとしたのか聞いてみましょう。そうすると、Aさんは新たな観点から境界線を広げる判断をするかもしれませんし、Eさんが納得して活動を引っ込めるかもしれません。このような階層構造をクリエイティブヒエラルキーといいます。創造プロセスのヒエラルキーを守りつつ、人と人として対等に動ける組織は強くなります。社長、部長、課長といった役職のヒエラルキーがあっても問題はありません。そこに安心して話せる豊かな人間関係があれば、みんなが本領発揮できます。誰もが自分の人生のソース役であり、人としては対等だけれど、リスクをとって一歩踏み出した人のクリエイティブヒエラルキーは守る。そうすると、仲間が集まれば集まるほどエネルギーが宿り、プロジェクトを高度に達成できます。

ここまでの話をまとめると、「ティール組織」はパワーとラブが統合した最先端の組織論です。「ソース原理」は人類が誕生して以来、創造的な集団に共通するパターンを説明したものです。今日はこの後、実際のプロジェクトの話がたくさん出てくると思いますので、「ティール組織」と「ソース原理」の観点を踏まえて話を聞くと、また見え方が変わってくるかもしれません。そんなことも楽しんでいただければと思います。

(ゲストスピーカー)
嘉村賢州氏 NPO法人「場とつながりラボ home’s vi」代表理事

元東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授。ティール組織の解説者として知られ、ソース原理、ホラクラシー、ソシオクラシーなど次世代型組織の研究と国内での実践支援を行う。一人ひとりの想いと組織の存在目的が呼応し合う「生命的な組織運営」の可能性を追究している。