PLATFORUM

第一部 事例発表&
パネルディスカッション

社会連携フォーラム PLATFORUM 2024

「ゆるくつながり創り出す-リアルな場に集うことの価値-」をテーマに2024年11月28日(木)に開催したPLATFORUM。第一部では基調講演の後、大曽根商店街にある喫茶店オーナーの高野仁美氏と本学人間学部准教授の加藤昌弘氏に登壇いただき、ゆるいつながりを生み出す実践者として、事例発表をしていただきました。そして、基調講演のゲストスピーカーも交えてパネルディスカションを実施。新しい可能性が生まれる場づくりについて考えました。

事例発表1
まちづくりのはじまりは
喫茶店〜喫茶店で起こる未知との遭遇

最初に事例発表していただいたのは、名古屋市北区の大曽根商店街にある喫茶はじまりのオーナー・高野仁美氏。高野氏は、大学生のときに「まちづくり」に興味をもちました。また祖父母と同居した経験から、地域に生きがいをもてる場があることの大切さを感じたこと、名古屋の喫茶店文化に魅力と可能性を感じたことなどから、パンメーカー勤務を経て、自身の喫茶店をオープン。名古屋の喫茶店文化を盛り上げるべく、小倉トースト普及委員会委員長としても活動しています。

高野氏の喫茶店のコンセプトは、「人と人、人とまちが出会い、新たな企てが、生まれる場所」。そして、まちが元気でにぎやかになったときに、『そういえばあの店がはじまりだったよね』と言われるような場所にしたいという思いで、喫茶はじまりという店名をつけました。喫茶店というリアルな場があることで、ゆるい人間関係が育ち、その関係性のもとでまちに新しいアクションや企てが生まれていく。そんな価値を生み出していくための試行錯誤を日々しています。

今回の事例発表では、リアルな場で起こった未知との遭遇体験を3つ紹介していただきました。1つ目は、「みんなで歩けば怖くない100kmウォーク」。喫茶はじまりの常連さん、常連さんの友人、そして喫茶はじまりの近所にあるカフェにたまたま居合わせたお客さんなどリアルな場で知り合った7名で、名古屋から豊橋まで約100kmを歩くウォーキングイベントに参加。それをきっかけに、今度は自分たちで大曽根を20キロほど歩くウォーキングイベントを企画しようと準備を進めています。

2つ目は、「みんなで初めての推し活体験」。喫茶はじまりの一日店長としてアイドルを招き、常連さんを巻き込んでイベントを実施。参加した常連さんがまた別の人を巻き込んで、アイドルとチェキを撮るという初めての推し活を体験しました。さらなる推し活として、チェキを撮ったアイドルの初ライブにみんなで参戦するという新たな企てをしています。

3つ目は、「ゆるいの極み『満月夜市』」。喫茶はじまりと同じ建物にある猫カフェ、レンタルキッチン、レンタルギャラリーが合同で満月の日に開催する夜市。この夜市で大事にしているのは、「ゆるさ」です。主催者と参加者という関係性をなくし、主催者側は一緒にお酒を飲んで楽しみ、参加者側は準備や片付けを任意で手伝います。そうすることで、お店の人とお客さんという立場を超えて、自然に名前で呼び合うような関係性を築いています。また、満月夜市で知り合った地域の方々が、今度はまちを盛り上げる側になろうと、新たなマルシェの開催を計画しています。

事例のように、リアルな場からゆるいつながりが生まれ、新たな企てが生み出されるためには、いくつかポイントがあるといいます。まず、常に場をオープンにしておくこと。喫茶はじまりは昼間は貸切の予約などは取らず、スペースを常に空けておくようにしています。ここに来たら誰かがいる、いつでも入れるというオープンな場であることが大切です。そして、さまざまな情報や価値がミックスされる機会をつくること。いつもとは違う未知なることに遭遇することによって、さまざまな情報や価値がミックスされ、出会ったことがない人同士が出会うような機会を意識的につくっているといいます。

喫茶はじまりのように、誰にでも常に開かれていて、さまざまな情報や価値がミックスされる場が地域にあることで、事例のようにコミュニケーションが連鎖し、地域に生きがいが生まれていくという貴重な報告でした。

事例発表2
ポッドキャストをやってみたら、
予期せぬつながりが生まれちゃった

2人目の事例発表は、本学人間学部の加藤昌弘准教授。研究室の学生たちと3年ほど前からポッドキャストを配信しています。ポッドキャストとは、インターネットで音声コンテンツを配信する仕組み。ラジオとは違って生放送ではなく、事前に収録したものを編集して配信します。都合のいいタイミングで収録しておくことができ、リスナーは時間や場所に縛られずいつでも番組を聞くことができます。

加藤研究室の番組は、毎週水曜日に新しいエピソードを配信。研究室の一角に本格的な設備のスタジオをつくり、そこで収録しています。リスナーは毎週200〜300ほど。バズってはいませんが、ポッドキャストではまずまずの数字です。

加藤准教授は、自分たちのポッドキャスト番組がなぜ、“人が集う場”になっているのかについて分析しました。1つ目のポイントは「リアルな場」があること。ポッドキャストはスマホ一台あればどこでも配信できますが、あえて研究室の一角にスタジオをつくり、スタジオに集まっておしゃべりをするという場をつくりました。

2つ目は「気軽に参加できる無責任体制」。番組は、大学ゼミが配信しているという触れ込みで、大学名やゼミ名を公表せずに匿名でやっています。パーソナリティもいません。ポッドキャストは世界中の誰でも聴けるコンテンツのため、番組を長続きさせるためにも、匿名にして番組に参加するハードルを下げているのです。

3つ目に、「必ず会える場」として3年間毎週定期的に配信を続けてきたこと。店の営業と同じで、行ったときに閉店していたらがっかりしてしまうもの。必ず毎週水曜日に新しいエピソードを出すことで、いろいろな人が集う場として機能しているのではないかということです。

それでは、なぜポッドキャストという場から“予期せぬつながり”が生まれているのか? 加藤准教授は、意図していないので分からないとしながらも考察を述べてくれました。

まずは、「がんばっていないこと」。内容や質にこだわりすぎず、とにかく毎週おしゃべりを配信するという方針で番組を続けています。そして、「どんどん手抜きに……」。ポッドキャストは収録してから編集して配信しますが、最近は編集の手間を省いて、どんどん手抜きになっています。また、「ゆるい雑談を発信し続ける」ことで、共感や親密さを抱いてもらえるのではないかとのこと。大学発の番組ですが、研究の話や説教などは一切なく、アニメや漫画の話、学生が経験してきたことなどをざっくばらんに話しています。

それにも関わらず、いろいろなつながりが生まれています。別の学部の教員や学生、大学職員が面白いからと番組に出演したり、オープンキャンパスに出てほしいと頼まれたり、いつの間にか全学的な広がりが起こっています。また、学生が親を連れてくることもあり、匿名にも関わらずテレビ局がネット情報から探し出して取材にきたこともあります。番組宛にSNS経由でお便りもたくさんいただいています。企業とのコラボレーション事例もあり、オンデマンド印刷会社とコラボレーションし、セルフプリントTシャツをつくる配信などもしています。

このように、ポッドキャストをやってみることでいろいろなつながりが生まれています。それらは意図的ではなく、自覚もないというお話でした。それでも、面白いつながりが確かに生まれているので、チームの結束を高めたり、外部とのコミュニケーションを図ったりする上でも、すぐにはじめられるポッドキャストのような音声コンテンツは有効だということでした。

パネルディスカッション
「リアルな場」の価値、
そして「可能性の場」のつくり方とは?

事例発表の後は、パネルディスカションを実施しました。パネリストは基調講演をしていただいたカフェ文化・パブリック・ライフ研究家の飯田美樹氏と株式会社ひらく取締役の武田建悟氏、事例発表をしていただいた喫茶はじまりのオーナー高野仁美氏とポッドキャスト番組をもつ人間学部准教授の加藤昌弘氏の4名。ファシリテーターは社会連携センターの社会連携アドバイザー白川陽一氏です。

はじめに白川氏から、ドーム前キャンパスにある共創スペース「社会連携ゾーンshake」について、コロナ禍で社会に分断が起こるなかで利活用がされづらくなっており、リアルな場に集まることの価値をあらためて探求したいという問題提起がありました。そして、リアルな場に集まったときに、つながりが生まれ、新しい企てが創り出される「可能性の場」にするにはどんな要素が必要なのかという問いかけからスタートしました。

加藤准教授は、飯田氏の「エッジから人を眺められる場所」、武田氏の「おしゃれな本屋をつくれば人が集まるわけではない」という話、そして地域になじむ高野さんの店の事例を受けて、共創が起こる場には、ゆるさが必要なのではないかという見解を示しました。

高野氏からも「ゆるさがあること、がんばりすぎないこと」をあげていただきました。高野氏の事例にあった満月夜市では、主催者側もがんばりすぎずイベントを楽しむ余裕をもっていることが、店側と客側という関係性を超えて新しいつながり方をするポイントになっているとのことでした。

飯田氏は「空間」と「場」には違いがあるといいます。「空間」は誰にでもつくることができますが、「場」をつくるためには人が必要であり、加藤准教授と高野氏は場をつくる人として機能していることで、新しいつながり・企てが生み出されているのではないかとのことでした。「何かを生み出そうと気合を入れてがんばりすぎてしまうと、何も生まれない。逆に完璧ではないゆるさがあることで、参加者側にも関与する余地が生まれ、『私も何かやってみよう』『創造性を発揮してみよう』という雰囲気が生まれるのです」と、話していただきました。

武田氏からは、「会社で新規事業部をつくるなどして、強制的に共創を生み出そうとするのは難しい。大前提として、個として『好き』であることが大事。酒場が好き、本が好きなど、好きなものをベースに集まった場があり、そこに酒場のマスターのようなファシリテーターがいて、つながりを生むきっかけや話題を提供する。そうすることで、空間ではなく場がつくられていくのではないか」と、発言していただきました。

最後に、登壇者からフォーラムの参加者へ共有したいキーワードをフリップに記入していただきました。

加藤氏:「がんばって がんばらない」
みんな放っておくとがんばってしまう。だから、がんばらないことをがんばるように意識してみては。そうすると、余裕が生まれて、新たなつながりが生まれるのかもしれません。

高野氏:「余白 スペースも心も」
カフェのように、ちょっと座って休憩できる場があるといいですね、そして、場をつくる側の人たちが、自分も一緒に楽しむ心の余白をもっているといいのかなと思います。

武田氏:「半径5メートルの幸せ」
場に集まる人全員のためというのは難しい。まずは無理せず、身近な半径5メートルの人に幸せになってもらう。そうすれば、またその先の半径5メートルの人が幸せになっていくのではないでしょうか。

飯田氏:「よい場を生み出すには人が必要」
空間をマネージメントする人がいてはじめて、その場に何かが生まれます。人と人がつながる場、いつまでも記憶に残る場をつくるには、人が介在する必要があるのだと思います。

「空間」と「場」は異なり、新しいつながりや企てが生み出される「場」には、がんばりすぎない気軽さや余白が必要であり、きっかけをつくる人が介在する。そして人の創造性が発揮されたときに、可能性が広がっていく…。今回のフォーラムで、場づくり、地域づくりの大きなヒントを得られたのではないでしょうか。

(ゲストスピーカー)
高野 仁美 氏 喫茶はじまりオーナー・小倉トースト普及委員会委員長

大学卒業後、業務用パンメーカー「永楽堂」に勤務。「小倉トースト100変化」「小倉トースト飲み会」などの取り組みの後、小倉トースト普及委員会を立ち上げ、9月10日を「愛する小倉トーストの日」として記念日制定。小倉トーストスタンプラリーや小倉トースト百人一首などのイベントを通して名古屋の喫茶店文化を盛り上げる。また、名古屋の喫茶店文化とまちづくりを掛け合わせることで、より多くの地域課題を解決できるのではないかと考え、現在は地元・大曽根商店街でまちづくり活動に取り組みながら、自身の喫茶店「喫茶はじまり」を開業。


加藤 昌弘氏 名城大学人間学部 准教授

専門は歴史学・メディア文化研究。立命館大学文学部西洋史学専攻・同大学院を経て、2006年からイギリス・スコットランドのスターリング大学大学院でメディア研究の修士課程を修了。2011年、博士(文学)。イギリス留学中にポッドキャストの第一次ブームに触れ、帰国後の2008年から自らもポッドキャストの配信をスタートした。その実践の過程で黎明期のニコニコ動画・Twitter・Ustream・YouTube Liveなどの参加型メディアを乗り継ぎながら、その経験を自身の学術研究にも取り入れてきた。著書に『異端者たちのイギリス』『ケルトを知るための65章』『ゆさぶるカルチュラル・スタディーズ』(いずれも共著)など。名古屋市生まれ。ライフワークはサイクリングとランニング。最近の趣味はフィンガードラミングやサウナ探訪など。