理工学部情報工学科×ITエンジニア育成プロジェクト
学究的学びと実践を両立させ、
IT業界で活躍する人材を育てたい
ユビキタスコンピューティングの研究に従事する鈴木秀和准教授。授業ではアカデミックな学びを重視する一方、MS-26学びのコミュニティ創出支援事業の一環として「プログラミングコンテストを通じたITエンジニア育成プロジェクト」を立ち上げ、IT業界で実際に求められる開発スタイルに準じた経験を学生へ提供し、社会で活躍できる人材の育成を目指している。その教育方針について話しを聞いた。(取材日2018年5月21日)
アカデミックな学びと スキルアップを両立
私は情報通信分野が専門で、モバイルネットワークやホームネットワークにおける通信の問題を解決する技術を研究しています。講義で教えているのは情報セキュリティやワイヤレス通信などの座学、プログラミング演習やタブレットを使ったロボットの遠隔制御実験なども行っています。
情報工学科は守備範囲が広く、IT分野の基礎的な知識を身につけることはもちろん、情報デバイス、情報処理、情報メディア、情報通信に関わる多くの専門科目の授業が設けられています。そのため、IT業界で求められる実践的な開発スキルを磨くには、学科のカリキュラム内の演習だけでは難しく、そのギャップを埋めるために、MS-26学びのコミュニティ創出支援事業(※1)の一環として、「プログラミングコンテストを通じたITエンジニア育成プロジェクト」を展開しています。
※1 MS-26学びのコミュニティ創出支援事業
「MS-26」はMeijo-Strategy-2026の略。名城大学開学100周年にあたる2026年を目標年に定め、多様な経験を通じて、学生が大きく羽ばたく「学びのコミュニティ」を創り広げるため、各学部で行う施策のスタートアップ費用を採択性により支援する。
プロジェクトの目的と 本年度の取り組み
「プログラミングコンテストを通じたITエンジニア育成プロジェクト」の目的は主に3つあります。1つはIT業界で使われている最新の開発関連ツールなどを使ったシステム開発を学生が経験することで、実践的なスキルを身につけること。2つ目は自分の興味や得意を活かしてプロダクトを創る楽しみを知り、自主性や自信をもたせること。3つ目は、グループワークを通じて人とのコミュニケーションを広げ、協調性を向上させることです。
プロジェクトは2017年に立ち上がり、今年で2年目に突入しますが、参加希望の学生は昨年より60名ほど増えて236名となり、内容も講師陣もグレードアップしています。今年取り組みが始まっているのは、民間企業のエンジニアを招いて行うセミナーです。企業のエンジニアが普段使っているシステムやツールを使って開発セミナーを行い、学生は手を動かしながら活用方法を習得します。さらに、プログラミングコンテストやハッカソンイベントなどへの参加を目標に定め、プロダクトを開発することでスキルアップを図ります。
総合大学の幅広い専門性を生かす
田中:大学が持っているテクノロジーが地域の課題を解決するってこともありますよね。特に福祉の面では、IT技術などで、体に障害のある方や高齢者の手助けをしたり、介護ロボットが高齢者をサポートしたりすることも将来的には考えられます。名城大学は総合大学で、理工学部や人間学部、薬学部などがありますので、福祉の分野でも何か面白いことができたらと思っています。
宮島:現在ナゴヤドーム前キャンパスに設置されているのは外国語学部のみですが、来年度には人間学部と都市情報学部が移転してきます。それぞれの専門性を生かして、福祉や都市政策の面でより連携をしていきたいですね。
田中:学部の移転に伴って、ナゴヤドーム前キャンパスの学部学生の数は130人ほどから2000人規模へと拡大するので、今から楽しみです。また、名城大学との連携協定は包括連携といって、全学部に及ぶものとなっています。他のキャンパスに設置されている学部も理系、文系と多岐にわたるので、総合大学ならではの様々な知恵を集結できたらいいですね。
豪華講師陣による開発セミナーを実施
エンジニアによる開発セミナーは、正課の授業がない土曜日に、IT業界の最前線で活躍するエンジニアを招いて実施します。Yahoo! のエンジニアを招いたセミナーでは、ソースコードの変更履歴を管理する「Git」を使ったチーム開発ハンズオンを行いました。マイクロソフトやIBMのセミナーでは、企業が提供しているAI(人工知能)や画像認識、音声認識といった最先端テクノロジーをロボットやマイコンと組み合わせ、簡単なIoTシステムを短期間で開発する実習を行います。
今年はソフトバンクの人型ロボット「Pepper」を使った試みもあります。「Pepper」のプログラミングを行うための基礎を学ぶセミナーを実施するほか、地元企業のエンジニアと組んで、学生が一緒になって学べる場も作りたいと考えています。地元企業にアトリエとして大学を開放し、「Pepper」を使ったプログラム開発をしてもらい、学生たちにはエンジニアと接することで、たくさんのことを学び吸収してほしいと思っています。
※「名城大学はPepper 社会貢献プログラムに参加しています」
ハッカソンイベント 「Hack U 名城大学」を開催
昨年はYahoo! JAPANが主催する学生向けハッカソンイベント(※)「Hack U(ハックユー)」の名古屋大会に私の研究室のメンバーを含んだチームが参加し、見事、優秀賞を受賞しました。今年度はYahoo! JAPANとコラボレーションして、秋頃に「Hack U 名城大学」という学内でのハッカソンイベントを企画し、理工学部のみならず全学部から参加者を募います。普段、理系学生と文系学生が接する機会はあまり多くないですが、学部や学年の異なる学生が集まることで、価値観に多様性が生まれ、新しいものが生まれることを期待しています。実際社会に出ると、医療、農業、建築など、様々な分野でエンジニアが必要とされていますので、学生たちにとって良い経験の場になるでしょう。
※ハッカソンイベント
ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を掛け合わせた造語。エンジニアやデザイナーなどがチームを組み、限られた時間の中でチームごとにプロダクトを企画、開発し、その優劣を競うイベント。
学生にきっかけやチャンスを与える取り組みを
学生にも話すことですが、チャンスは誰にでも平等に生まれていますが、そのチャンスに辿り着けるかどうか、そのチャンスを掴むかどうかはその人の行動次第ではないでしょうか。待っているだけでは何も始まりません。まず一歩動いて自分の領域の外に出てみる。そうすると、いろんな知識やスキルを持った様々な人とのネットワークができ、今まで出会えなかったチャンスがたくさん巡ってきます。
もしチャンスを掴めなかったとしても、自分に何が足りなかったのか、今後何を学べばいいのか、行動することで自分の進むべき次の道が自ずと見えてきます。私たち教員にできることは、学生たちに一歩を踏み出すきっかけや挑戦するチャンスを提供することです。
また、IT業界は進化が著しく、今使っているサービスや開発ツールが数年後には全く使えず、新しい技術が出てくることは稀ではありません。卒業をして就職しても、常に勉強をしていかないといけないのです。だからこそ、学生のうちに「学ぶ楽しさ」を知り、卒業・修了後も楽しみながら学び続けてほしい。「プログラミングコンテストを通じたITエンジニア育成プロジェクト」には、そんな思いを込めています。