下呂市×理工学部建築学科
地域との取り組みは、学生にとって
机上で終わらないための実践の場
昨年12月に、下呂市の森林問題を考える「森と人の物語」プロジェクト木育ワークショップを開催した建築学科の谷田真研究室。下呂の森林の現状を遠くのまちの出来事としてではなく、下呂と名古屋を川でつながるひとつのまちのコトとして捉えた体感型のワークショップは産官学連携の新しい可能性を感じさせてくれた。その他に、佐久島や半田でのプロジェクトについてなど、谷田真研究室の取り組みについて話を聞いた。
下呂の森林について考える
下呂市に限ったことではないんですが、日本の森は今、林業の衰退とともに、杉を中心に人工林が増えすぎてしまって、土地が荒廃して土砂災害を誘引したり、生態系に変化を及ぼし生物の多様性が失われるといった問題が生じています。それは、森林が多い下呂市で問題視されていることではありますが、巡り巡って森から川へ行き着き、川は都市へとつながっているので、我々下流域に住む人間にとっても、長い目で見ると影響が出てきます。つまり下流域に住んでいる我々も、下呂市が直面している問題の当事者なのです。そういった意識を都市に住んでいる人に伝えていくための活動として、私の研究室では下呂市と連携して、「森と人の物語」プロジェクト木育ワークショップという取り組みを学生といっしょに行いました。
森を五感で感じるワークショプ
ワークショップは、ナゴヤドーム前キャンパスの「shake(シェイク)」という社会連携のためのコミュニティスペースで実施しました。レクチャー編と体験編という2 つのメニュー構成で、レクチャー編では、森が抱えている問題や森のなりわいについてなど、森の専門家に語っていただきました。体験編では木材を触ったり、かんなで削ったりして、木の種類によって硬さや香り、色などが異なることを体感してもらいました。また、木片を参加者にお渡しして、サンドペーパーで磨いてもらうことにしました。最初は木片で何かプロダクトを作るという案もあったのですが、何かものを作るより、木片を持ち帰って、ワークショップ後もサンドペーパーで磨いたり、触ったりして、木に愛着を持ってもらうのがいいのではないかと思って、磨くというシンプルな企画になりました。
実践的なプロジェクトから学ぶ
ワークショップの企画は学生にもアイデアをもらいながら進めました。学生のアイデアが採用されるところまではいかなかったのですが、考えるプロセスが大事で、学生にとっても意味のあるプロジェクトになったと思います。
また、下呂市ではこれ以外にも飛騨金山エリアで路地を生かしたまちづくりに取り組んでいます。地域の人の声はすごくリアルで、課題に机上で取り組んでいると、独りよがりや思い込みでデザインを進めてしまいがちですが、実際は全然違う答えが返ってきたり、求められていたものが違ったりということが起こります。それは学生がこれからものづくりをしていく上で貴重な経験になると思います。ですから、私の研究室では実践的なプロジェクトに積極的に参加してもらっています。ただ、いろんなキャラクターの学生がいて、モチベーションや取り組み方もそれぞれ違いますので、なるべく学生の自主性に任せて取り組んでいくのがいいんじゃないかという気がしています。
学生が自ら取り組む 佐久島プロジェクト
去年の夏ですが、3 年生の学生に自分たちだけで取り組むプロジェクトをやりたいと言われました。報告はするけど、先生は何も言わないでくれって(笑)。以前に縁があった佐久島の知り合いを学生に紹介したら、学生たちはすぐに佐久島に行って、自分たちで課題を見つけてきました。
島に陶芸小屋をつくるということになったんですが、島の方に廃材を提供してもらったり、大工さんも見つけてきて、この日は床を張ろうとか、今日は土間を打とうとか、学生たちが計画して進めています。私はたまに写真が送られてきて進捗報告を受けるのみ。まだ一度も現地に行ったことはありません。学生たちの姿を見て、僕は今まですごく口を出していたんだなと感じました。なるべく任せていたつもりなんですが、学生はそう思っていなかった。だから佐久島のプロジェクトは、気にはなってはいますが(笑)、口を出さず学生主体で進めています。
屋台をまちに持ち出し語り場に
現在は、半田市で駅前の土地区画整理事業に伴うまちづくりにも取り組んでいます。そのプロジェクトでは、屋台のような屋根付きのテーブルを学生たちが設計して、それをまちに持ち出し、みんなが語り合うコミュニティの場のようなものを作れないかと考えています。
また、今年度は下呂市でもそういった屋台を使って、ゲリラ的にワークショップを開催したいと考えています。テーマや日時、時間を決めて集まることにももちろん意味はあるんですけど、温泉にくつろぎに来て、まちを歩いていたら何かやっていて、たまたま参加してみたら森林の問題に出合った。そういうようなことができれば、ワークショップに来る方とはまた違った方たちにもメッセージが届くかもしれないと思っています。