PLATFORUM

共創が生まれる場をつくり、本質を学ぶ
PLATFORUM「中部・愛知エリアの共創を加速する〜REALIZE〜」

本学の社会連携センターが主催する、産官学連携による共創を学ぶフォーラム「PLATFORUM」。2022年度は3月20日(月)、ナゴヤドーム前キャンパスにて3年ぶりとなる対面で実施しました。2017年度より毎年開催してきた本フォーラムですが、その間に社会を取り巻く状況は大きく変わり、パラダイムシフトが起こりはじめています。そこで今回は、ここ数年の時代の変化をとらえ、これからの中部・愛知エリアの共創を加速するヒントを得る機会として開催しました。

時代の変化をとらえ、
これからの共創を考える

社会連携センターが誕生した2017年より、毎年開催してきたPLATFORUM。大学と社会をつないで共創を加速するための学びの場、そして共創を生む出会いの場として機能してきました。

これまでの歩みを振り返えってみると、2017年頃は大学が地域や社会に開かれた場となることが求められるようになり、本学では社会連携ゾーン「shake」や共創を学ぶPLATFORUMを立ち上げるなど、先進的な取り組みをいち早くスタートしました。共創事例がまだ少なかった当時からすると、現在は共創の機会は格段に増えました。一方で時代の変化も凄まじく、今後より意味のある共創の芽を生むためには何が必要なのか、そのヒントを得る場として2022年度のフォーラムを企画。以前に本フォーラムに登壇した共創のトップランナー3名をあらためて招き、登壇当時から現在にいたる変化、そして未来について話を伺いました。

当日は共創に関心をもつ学生と社会人が100名ほど集まりました。3年ぶりの対面実施とあって、ゲストトークを踏まえての対話、パネルディスカッション、懇親会など、人と人とが交わり、出会う場となる工夫を凝らしながらの開催となりました。

自分のわらを持って、歩き始めることが大事

ゲストトークの一人目は、2018年度のフォーラムで基調講演をしていただいた竹林一氏。「たった一人からはじめるイノベーション入門〜イノベーションを起こすチームのつくり方〜」と題し、講演されました。

竹林氏からは、イノベーションを起こす組織とは多様性のあるチームであること、チームに必要なのは起承転結の人材、つまり、ゼロからイチを仕掛ける「起」、ゼロからイチをN倍化するグランドデザインを描く「承」、事業計画を立て、リスクを最小化する「転」、仕組みをオペレーションする「結」という、得意分野を異にする4つの人材が必要だということを、事例を交えて解説してされました。

また、共創を生むのに大切な「エフェクチュエーション(実効)」という思考プロセスを紹介。自分は何者か、なにができるのかを知り、許容可能な損失を計算し、仲間を集め、なにが起こってもプラスに変え、できることに注力する。このプロセスをぐるぐる回すことで、新しい事業は立ち上がると強調しました。

「エフェクチュエーション」は、日本昔ばなしの「わらしべ長者」と同じだと竹林氏は話します。わらしべ長者は、観音様が夢枕に出る前に、自分が何者であるか、なにを持っているかを考え続けたといいます。その結果、観音様のお告げが現れたのです。一番大切なのは、まず自分の武器を持って歩き始めること。歩き始めれば、いろんな人に出会って価値を高めていける。皆が一歩を踏み出す勇気を得られる話をしました。

学習や自己研鑽を続け、共創の素材を集めよう

二人目は、2017年度のフォーラムで行政の立場から産官学連携の取り組みについて講演していただいた河村昌美氏。河村氏は前回のフォーラム後に横浜市の役所を退職し、現在は全国の自治体や企業を対象に、公民共創や地方創生による新規事業構想プロジェクトの研究をしています。今回のフォーラムでは「未来の社会を実現する公民連携による共創」について話をされました。

河村氏は未来を知り得る方法として、既に起こったことの帰結を見ることが重要だと話します。例えば、人口動態。日本人の平均年齢はここ30年で高齢化し、高齢者人口は増加、若年人口は減少、生涯未婚率は増加している現状を具体的な数字とともに提示。さらに、国際社会の中で日本は人材競争力が落ちていることを確認しました。そんな中で政府は、これまでの公共サービスを見直し、あらゆる分野で民間と行政が一体でサービス・事業に取り組む必要があると主張。つまり官民共創は、今や国が求める必要なチャレンジなのです。

河村氏は前回登壇した2017年と現状を比較し、産官学連携は着実に拡大している一方で、共創という手段が目的化してしまう傾向にあること、実証実験が進んでも実装につながらないといった課題があると話します。そういった課題を越えるためにも、一人ひとりが学習や自己研鑽を続け、さまざまなことを見聞きし、多様な人と知り合い、対話することを大事にしてほしいというメッセージを送りました。

「個」でつながり、自分軸をもって生きる

ゲストトーク三人目は、2019年度のフォーラムで基調講演をしていただいた齋藤潤一氏。「持続可能な地域づくりとスタートアップ〜地元農家と一緒に100年先も続く持続可能な農業を実現する〜」をテーマに話をされました。

齋藤氏は宮崎県新富町で一粒1000円の国産ライチのブランディングを実施。ライチはもともと新富町で細々と作られていましたが、味に魅了された地元の農家が一念発起し、本格的な生産をはじめました。その国産ライチのブランド化を担っているのが、齋藤氏が代表を務める地域商社こゆ財団です。

また、農業の現場課題を改善する収穫ロボットを開発する会社も設立しています。目指すのは、笑顔とお金のバランスがとれた、持続可能な地域をつくること。これらの経験から、斎藤氏はどんな地域にも埋もれている資源があり、資源を生かせば地域でさまざまなチャレンジができ、テクノロジーを活用することで地域の可能性はさらに広がっていくと話します。

そして、これからの時代に大切なこととして、「個」と「つながり」という2つのキーワードを挙げました。中央集権的で、東京一極集中の社会は終わりを告げ、オンラインで分散型でつながり、新しい地域経済をつくる動きが加速しています。これからは集団ではなく「個」が大切であり、一人ひとりが発信力をもってつながることで新しい価値が生まれる。そんな未来に向けて動き出している齋藤氏の話は、参加者に刺激を与えました。

交流を深めるパネルディスカッションと懇親会

ゲストトークの後には、3名の登壇者に加えて、学生と一緒にさまざまな共創プロジェクトを手がけている本学情報工学部の川澄未来子教授をパネリストに迎え、ディスカッションを開催しました。

パネルディスカッションの進行役は、社会連携センターの宮原知沙氏。宮原氏からは、パネリストに「時代の変化をどうとらえているか」「現在はどのようなことに力を入れているか」「次の5,6年先をどのように見据えているか」という3つの問いかけがありました。

竹林氏からは、一人ひとりが幸せを追い求める「自立社会」が到来する、その到来に向けて活躍できる人材を育てること、Z世代を中心とした新しい感覚を身につけることに注力していると話しました。また、これからの日本は規模やパワーで競うのではなく、持ち味を生かした勝てる軸を探すことが重要であり、そのグランドデザインを描ける「起承」人材を若い人たちから育てていきたいと語りました。

河村氏からは、共創が必要不可欠であることをみんなが認識したのがここ5,6年であり、共創の枠組みは増えたが、話し合いが不足していると指摘。今大事なのはカタチにとらわれず、実際にフールドリサーチをして、「!」や「?」に出会うこと、そして未来に向けて、現状を認識して共創によって変えていくことだと話します。それには生真面目さを取っ払うことがカギになると主張しました。

齋藤氏は、ミクロの視点では世の中はいつまで経っても変わらないが、マクロ的には螺旋階段のように少しずつみんなが変化していると話します。そんな社会で重要なのは、やりたいことに自覚的になり、自分の人生の時間を大事にすること。そして、やりたいことを自分で選択し、豊かな人生を過ごすためにも、「個」でつながることを意識してほしいと訴えました。

川澄教授はコロナ禍で学生たちが内向きになっていると危惧し、リアルな海外研修などを通して学生が外に目を向ける機会を増やしたいと話します。また、日本人は失敗に対する抗体が少なく、失敗を受け入れる受容性も低いところに課題がある。一人でも多くの学生をキャンパスから引っ張り出し、異質なものと出会い、失敗から立ち上がる機会をつくっていきたいと語りました。

パネルディスカッションの後は、懇親会を開催。中部・愛知エリアの共創プロジェクトを紹介するピッチや交流会が催され、参加者同士が知り合い、語りあう場となりました。

2022年度のPLATFORUMでは、オンライン開催では叶わなかった臨場感やリアルな場のよさをあらためて感じることができました。また、社会連携センターの役割として社会と本学のパイプ役であり続けると同時に、本学もこれからの社会を担う当事者であることを自覚し、10の学部がある総合大学として、魅力ある学生や教員、研究が揃う学内のリソースを共創の場で生かしていくことの必要性をあらためて認識しました。