事例報告
「ファンづくりで地域をつくる
~奈良県生駒市のシティプロモーション~」

2018年12月15日(土)に開催された社会連携センターPLAT 主催のフォーラム。奈良県生駒市いこまの魅力創造課の大垣弥生氏をお招きし、生駒市のプロモーションについてお話いただきました。

奈良県生駒市 いこまの魅力創造課 課長補佐
大垣弥生氏
民間企業で10年間販売推進を担当後、生駒市に入庁。多様な主体との協創によって、まちの魅力づくりとファンづくりを進める。2017 年「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード」を受賞。

大垣弥生氏:奈良県生駒市役所で市のプロモーションを担当しております大垣弥生と申します。皆さん、市役所の職員という職業にどんなイメージをもたれていますか?

「地味」「仕事が楽」「融通がきかない」「勉強はできても人間性は良くない」…。ひどいですよね。これは昨年生駒市役所にワンデーインターンシップでやってきた学生たちが答えたイメージです。公務員に興味がある学生でさえこんなイメージをもっています。でもこれ、大体の人が同じようなイメージだと思うんです。今日のフォーラムのテーマは「共創で新しい価値を起こしていく」というものですが、市役所の職員にはそんなことできない、共創から一番遠いところにいる存在だと思われているのではないでしょうか。

私は民間企業で11年間働いてから、子育てのために渋々転職をしました。職業を聞かれて、「市役所の職員です」と言うと、「うわ、めっちゃ楽やん」「17時には帰ってんのやろ」なんて言われて落ち込み、長らく職業コンプレックスでした。でも期待されていないからなのか、今までとちょっとでも違うことをしたら社会に小さなインパクトを起こせる職業であることに気付きました。

5年ほど前、広報課時代に職員採用のチラシをつくりました。A4サイズで、製作費は0円。職員をモデルに撮影をして、自分たちでデザインをして、自分たちでコピーをつくりました。そしたらこれがなんと、「Yahoo!ニュース」のトップに載ったんです。5大紙すべてに載せてもらいました。「めざましテレビ」でも紹介されて、一年間ほどかけて息の長いニュースになりました。

2年前につくった採用ポスターも「朝日デジタル」のトップニュースになりました。広報戦略は採用改革の柱の一つですが、超売り手市場といわれる就職戦線の中で、生駒市は毎年1,000人以上の学生が受けにきてくれて、今は関西で一番応募倍率の高い人気自治体になっています。

私の担当した仕事で補足すると、例えば転入促進のためのバスツアーを実施しました。住宅都市がバスツアーをするなんて新しいということで、関西の夕方のニュースで特集してもらいました。それから、広報誌で子育ての特集をしたら、「ハフィントンポスト」に経緯を掲載してもらったこともあります。そして、いたって普通の私が“日本一負けず嫌いの自治体職員” というタイトルで、「フォーブス」のウェブニュースに載せてもらいました。
転職して長らく、行政職員なんてイケてない仕事だなと思っていましたが、役所のルールや慣習に捉われず、価値観を少しだけ変えて世の中にアウトプットしたら、市役所職員でも世の中に何らかのインパクトを起こせるんだなと思うようになりました。

生駒市は奈良県の北西部に位置する住宅都市です。大阪までは20分。小中学生の学力も、個人年収も高くて、戸建て住宅が広がるまちです。

特徴的なのは県外就業率が全国2 位というところ。“奈良府民” といわれることもあるぐらい大阪で働いて、大阪で学んで、大阪で遊んでいる人たちが多く住んでいるまちなので、地元に関わるきっかけというのが少ないんです。今まではそれでよかったかもしれない。駅ができてその周りに住宅地が開発されて、行政が働きかけなくても人が移り住んで、潤沢な市民税に支えられ、市は発展してきました。でも大型開発も落ち着いて、ずっと右肩上がりだった人口は横ばいになり、とうとう人口減少局面になりました。

子育て世代は都心回帰をしているといわれています。今までは都心で働いて周辺のベッドタウンに住むのがスタンダードなライフスタイルだったけれど、今は都心で働いて、都心で暮らすことが主流になってきています。

それから、超高齢化。生駒は急激に後期高齢者が増えています。人口減少よりも、年齢構成の大幅な変化が生駒市の課題です。市税収入に頼って発展してきたまちだったのに、まちを支えてくださっていた人たちがリタイアされて、税収が減り、社会保障経費がどんどん増えているんです。

そんな中、6年前にシティプロモーションを担当することになりました。シティプロモーションというのは、10年後、20年後もまちが発展し続ける仕組みをつくることと理解していただければいいかと思います。まちによっては認知度を上げることを目的にすることもありますし、交流人口を増やすことを目的にするまちもありますし、特産品の売上げ拡大を目的にするまちもあります。

生駒市は住宅都市ですし、それまでは広報を担当したこともあって、「生駒市のシティプロモーション=転入促進のための市外向け情報発信」だと理解していたんです。「自然が豊かで、大阪まで20分、子育て行政施策が充実している」ことを広めることが最良だと信じて、いろんな事業を実施していました。不動産会社などで配布する行政施策をまとめたリーフレットをつくったり、転入促進のためのバスツアーをしたり。「これでいいんだ」と自己満足していたんです。

そうしたらあるとき、広告代理店の方に「大垣さん、生駒の価値を教えてください」と聞かれました。「自然が豊かで、大阪まで20分で~~」というようなことを話したら、「それは生駒市の価値じゃないですよね」と言われたんです。「子育て行政施策なんて日本全国どこも似たり寄ったりです。大阪まで20分と言われていますけど、大阪の人にとっては遠くなってるじゃないですか。それをPR素材だと思うのはやめた方がいいですよ」と。

わあ、そうかと、すごい衝撃を受けました。私はちゃんとやっていると思っていたのにそんな厳しい言葉をもらって、どうしようと。
そこで地域に目を向けてみたら、ソーシャルグットの考え方が生駒にも浸透していて、私が10年前市職員になったときには起こっていなかったプロジェクトが、地域でたくさん起こっていました。

例えば、音楽好きのママたちがブラスバンドをつくってファミリーコンサートを開いたり、いらなくなった電車のおもちゃを集めて駅前で「プラレールひろば」をしたり、ママがママのためのマルシェをしたり。そして市民活動だけではなく、ローカルなニーズに応えるような、小さな起業もいっぱい起こっていたんです。

生駒ならではの魅力や価値って、地域に思いを寄せる方々の活動に他ならないと気付き、徐々にプロモーションの方向性を変えていきました。そして、行政が考えるべきなのは、どうPR するかとか何をPR するかよりも、まちの魅力や魅力をつくる人を増やすサイクルをつくることだと気付きました。

「生駒で家を買って、住んでくれる人を増やして終わり」なんておこがましいですよね。行政の大きな課題は、住民自治をどう進めていくかということですが、まちに愛着や関心をもって、まちに参画してくださる人を増やすことこそが必要なんだなと。

私自身市職員になるまでは、まちに関わるなんて本当に面倒くさかった。だからこそまちに魅力をつくる人を増やすには、「まちに関わる= 楽しい」というのを実現することが必要だと思っています。それで「まちづくり= 面倒くさい」という価値観を変えるために、今まで行政がしてきたアプローチ方法を変えようと思いました。

まずは、なんでも行政でやらないといけないという思い込みを捨てました。これでは仲間が増えないんです。なんでも行政主導でやろうとせず、一緒に考えましょう、一緒にやりましょうと呼びかけることにしました。その一例ですが、市民PRチーム「いこまち宣伝部」をつくりました。まちの人たちが、生駒の魅力を動画やフォトブックにしたり、フェイスブックで発信したりする活動です。

行政の発信には公平性を求められるので、いいなと思った店や人を感覚的に紹介することはできないんです。それなら、まちの人に紹介してもらおうと。まちの魅力はまちの人が多面的に語らないと拡散していかないなと思って立ち上げた事業ですが、フェイスブックチームが担当する市のフェイスブック「まんてんいこま」はローカルメディアとして重要な役割を果たしています。

それから行政はどうしても真面目にコミュニケーションしてしまうから、ダサくなるんです。真面目でダサいものに人はワクワクしませんよね。お洒落とか、面白いとか、写真映えすることを意識したコミュニケーションもきっと必要だと思ったんです。その例として、3 年前から都市イメージの向上を目指して「IKOMA SUN FESTA」というアウトドアイベントを開催しています。

これまで生駒市には将来住民になる可能性のある人達にまちの魅力をPRする場が無かったんです。家を売るのは、民間企業に任せておけばいいと。
でもこれからは、生駒のイメージを高めながら、このまちの魅力を体感してもらう必要があると思ってはじめたところ、1日で10,000 人もの人がきて、7割以上の人が「生駒のイメージが良くなった」と答えてくださいました。カフェやバー、美容院、花屋、フレンチやイタリアンといったお店に声を掛けて、それまでは行政がご一緒できていなかった方々と一緒に生駒を発信する場をつくることができました。

装飾もつくり込み、広報物にもこだわりました。おかげで行政の事業はダサいという固定概念を払拭でき、フェスタに来た方たちが、「こんなお洒落なイベントなら私も出たい」とおっしゃってくださって、1年目は参加者だったママが2年目はワークショップを開催されるなど、参加者がまちの担い手になっていくという循環を起こすことができました。

また、行政は「市民の皆さん」を対象にしてしまいがちで、ターゲットを絞ることができないんです。それじゃあだめだと思って、最大公約数を狙わず、一番届けたい方々、動いて欲しい方々を設定して事業を企画しています。

たとえば、オトナ女子会。一軒家のギャラリーを貸し切って、ドレスコードも決めて、パーティーデコレーターやカフェを経営している方と一緒に企画しました。

そうしたらたくさんの応募があったんです。「夢を語り、つながる」ことがコンセプトの女子会でしたが、パン教室の主宰者とカフェをしている方がコラボしてイベントを実施したり、マルシェの出店を後押しすることになるなど、みなさんの一歩を応援する場になりました。

また、それぞれの分野で活動するまちのキーマン同士が出会う場がないという課題もありました。夏に実施したのは「シビックパワーバトル」というプレゼンバトル。京都市、神戸市、尼崎市、枚方市など政令指定都市と中核市と戦いました。ヤフー株式会社に協賛をいただきグランフロントの最上階という最高の場所で。

「絶対に勝ちたいので、お力を貸していただけませんか?」と、お願いすると、「じゃあやろう」と答えてくださり、3ヶ月間ミーティングを重ねて、本気でまちの魅力を掘り起こし、プレゼンしてくださいました。おかげで最優秀をとったんです。

メンバーは、「いこママまるしぇ」の代表、育児支援をされている方、いこまち宣伝部の方、デザイナー、イラストレーター、子ども・地域食堂の主催者、PTAの会長など。こういった方々がチームになったことで、今まで出会わなかった方々が親交を深め、また新しいことが起こり始めています。

事業を起こすときに心がけているのは、参加した後に皆さんが語りたくなる企画にすること。「シビックパワーバトル」の参加者が、こんなふうに話してくださいました。「行政に与えてもらっているだけではまちへの愛は生まれません。自分が当事者になって初めて生まれるものです。生駒への愛でつながる友だちができて心強くもあるし、自分のやりたいことを生駒でやろうという、新たな展望のキッカケにもなりました」と。

地域で心を許せる友だちができるってすごいことですし、そのつながりがまちの魅力をつくっていくんだと、あらためて思いました。これを内輪のできごとにせず、多くの人に伝えることで、生駒を楽しむ人を増やしていきたいと思っています。

今まで行政は、地域をよくするために地域のことを考えてくださいと呼びかけることが多かったと思います。地域のため、人のためだけでは動きづらいことは自分が一番よく分かっているので、「あなたが幸せになるために、生駒とつながりませんか」というメッセージを出すことを大切にしています。
生駒を楽しんでもらう人の輪を広げるために、人と人を結びつけることも意識しています。例えば生駒のあるカフェの店長が、「うちの店は朝に子育て世代の方があまりいらっしゃらないんです」とおっしゃっていました。一方でマルシェに出店しておられる方々が、活躍の場を求めておられました。これは可能性があるなと思って両者をつないだところ、ワークショップを月に1回開催されることになりました。自己実現の場と、ママたちが来店するきっかけが同時に生まれる機会になっただけでなく、今ではカフェでワークショップをする事例が市内で広がっています。

こんな取り組みがどれだけ役に立っているかは定かではありませんが、生駒はどんどんおもしろいまちになっています。今年1年だけでも、「大人茶論」といって、3、40代が集まって交流する場ができたり、起業を目指す方々が「なないろパーティ」というマルシェを開いたり、いこまち宣伝部を経験されたデザイナーが「イコマカメラ部」を作ったり。どんどんコトが起こってきています。

こういう動きは、代理店に丸投げしてプロモーション事業を実施していては起こらなかっただろうと思います。市民の方々はいいまちで暮らしたい、私たち行政職員もいいまちにしたい。“will” が同じだったからこそ起こったことだと思います。
イケてない市職員という立場ではありますが、これからも暮らす価値のあるまちとして生駒市が選ばれるように、プレイヤーの1人としてコトを起こしていきたいと思っています。