農学部 応用生物化学科 応用微生物学研究室 加藤雅士教授

地元の醸造、発酵文化に着目し、
学生とともに科学から産業を生み出したい

春日井市に名城大学の農場があるのはご存知だろうか? そこで育ったカーネーションから分離した酵母を使って、酒や酢など、名城大学オリジナルの商品を開発してきた農学部。名城大学赴任以来、学生とともに商品開発に携わってきた加藤雅士教授に、今までの取り組みについて話を聞くと、商品開発の裏側には、地元に根付く醸造や発酵の食文化を盛り上げようとする指導者と学生の熱い思いがあった。

基礎から応用まで幅広く研究

私の専門は微生物学ですが、名城大学は産官学連携に力を入れているため、商品開発も積極的にやっていこうと考え、微生物学について、より汎用性を持って研究に取り組んでいます。東海地域といえば非常に発酵産業が盛んです。味噌や酢を作る地元の大手企業や酒蔵も多く、醸造や発酵の技術について研究することはいろんな側面でメリットがあると考えています。
私が名城大学に赴任してきたのは6 年ほど前になりますが、まず名城大学オリジナルの商品を開発しようと考え、思いついたのが「花」です。春日井市に農学部の附属農場があり、そこで花の研究をしている先生がいらっしゃいます。大学の農場で採れた花の酵母ならイメージもいいので、花から取り出した酵母で日本酒が作れないかと研究を始めました。

試行錯誤の末に誕生した日本酒

最初は農場に栽培されている花を徹底的に調べることにしました。学生といっしょに200 種類ほどの花をサンプリングして、最初に酵母を取り出すことに成功したのがカーネーションでした。次はそのカーネーションの酵母を使って、醸造試験を始め、実際に日本酒を作ってみようと、愛知県の食品工業技術センターに協力していただき、商品化に向けて醸造試験を繰り返しました。そして取り組みを始めて3 年、ようやく商品化まで持っていくことができ、学生と学会発表にも臨みました。
商品化するにあたっては、名城大学の日本酒研究会と付き合いがあった東浦町の原田酒造に協力していただくことになり、産官学連携の体制で、名城大学オリジナルの日本酒「華名城(はなのしろ)」が完成しました。ネーミングは学生公募の中から選んだもので、農学部の当時3 年生だった学生の案を採用しました。

「飲む酢」を経営学部と
連携して製品化

オリジナルの日本酒が完成してすぐ、第2 弾として日本酒の醸造過程で出る、酒かすを使ったアイスクリームを作りました。そして、翌年には第3 弾として阿久比町の三井酢店と共同開発した「華名城 飲む酢」を発表。飲む酢を商品化するにあたっては、せっかくの総合大学ですので、文系学部の学生にも関与してもらいたいという思いがありまして、プロダクトデザインを専門にされている経営学部澤田慎治先生のゼミ生に、商品ラベルのデザインを考えてもらったり、商品のPR ポスターを作成してもらい、地下鉄に掲出したりしました。まさに生きた教材として、学生たちにとって良い機会になったのではと思います。学生には、「社会の中で自分は何ができるのか」を学生時代から考えて欲しいと思っています。

地元の食文化に科学で貢献する

醸造や酵母について新しい技術を開発すると、新しい産業の可能性が見えてきます。研究機関である大学として地域や企業と連携することには大きな意味があります。カーネーションの酵母で日本酒を作ったこともその一環ですが、さらに面白いことに、カーネーションの酵母の日本酒を詳しく調べてみると、腸内細菌に作用するオリゴ糖が、通常の日本酒の20 倍以上入っていることが分かりました。糖だけではなく他の成分の違いなども見えてきて、今はその研究を進めているところです。
また最近、麹(こうじ)が流行っていますが、麹菌はいろいろな酵素を持っていて、まだ知られていない酵素があることが分かってきました。新しい酵素について論文発表をして、特許化もしましたので、ひょっとしたら今後、産業に結びついていくかもしれません。すでに具体的な動きもありますが、そういったプロジェクトはこれからもどんどんやっていきたいと思っています。

プロジェクトを通して学生にも変化が

麹菌酵素についての具体的な動きというのは、大手企業との連携の話なのですが、そういった機会に学生が触れることで、最初は欲がなかった学生も、「自分、なかなかいけるじゃん」と意識が変わってくるんです。もっと研究がしたいと大学院に進む学生もいれば、視野を広げて就職に臨む学生も出てくる。もう今は世界中グローバル化していますので、学生にも広い視野を持って、世界の中にいる自分というものを意識してもらいたい。
といっても、身近なところからやっていけばいいんです。発酵食は今すごく注目されていて、海外でも日本食ブームですが、日本食のベースは何かというと、味噌、しょうゆ、酒、酢、みりん。これらは、すべて発酵食品です。地元の食文化であり、世界に誇れる醸造、発酵の分野で、サイエンスからインダストリー(産業)へ。そういうことに学生と取り組んでいきたいと思います。